検索
連載

突然“売れなくなった”PC周辺機器やサプライ用品の裏で何が起こったのか牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

PCやスマホの周辺機器およびアクセサリーが売れなくなる原因のほとんどは、本体機器の終息だが、中には規格の変更やトレンドの移り変わりによって、複数の製品で利用できた周辺機器やアクセサリーが、突如パタリと売れなくなることがある。メーカーにとって予測できずダメージが大きいこうした事例についてみていこう。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

第一波は持ちこたえるも、第二波で息絶えたPCラック

 まだCRTディスプレイが一般的だった1990年代後半、それらとデスクトップPCの組み合わせは、その巨体故、家庭内では置き場所がないケースも少なくなかった。その置き場所として、当時売れ筋だったのがPCラックだ。

 量販店も、PCが1台売れればPCラックとチェアが必ずワンセット売れるといった具合に、客単価をアップさせるための商材としてふんだんに活用していた。デスクトップPCが消滅しても、今でもこれらのラックだけは自宅の片隅で違う役割を担っているという家庭は多いかもしれない。

 2010年代に入ってほとんど目にしなくなったこのPCラック、消滅に至る第一波は、2000年代に入ってすぐの液晶ディスプレイの普及だ。当時のPCラックといえば、奥行きが50cmはあるCRTディスプレイを置くために、キーボードの奥行きをプラスして、70cmから80cmもの奥行きはあるのがザラだった。

 しかし、液晶ディスプレイが登場したことで、奥行きのあるPCラックは一気に陳腐化し、奥行きが50〜60cmという、スリムな製品が一般的になった。CRTディスプレイから液晶ディスプレイへの移行は一気に行われたわけではないので、メーカーはそれほどダメージを食らわなかったが、以前のモデルはほぼ全てが終息の憂き目に遭った。

 そして、その数年後に致命的なビックウエーブが訪れる。それはノートPCの普及だ。ノートPCは、設置のためにわざわざPCラックを用意する必要はなく、身近なテーブルや、あるいはソファに座って利用し、使わないときは片付けておけるので邪魔になることもない。

 もはや置き場所を作るためにPCラックを買うという選択肢はなくなり、多くのメーカーはPCラックから撤退。ホームセンターなどに供給している事務用品系のメーカーの品を除き、市場からほぼ姿を消すことになった。今ゲーミング用品売場で、チェアとともに置かれているのは、ラックではなくデスクと呼べる本格的なものがほとんどだ。

 PCラックの滅亡の裏にはもう一つ、プリンタが以前に比べて売れなくなったという事情もある。もともとPCラックは、ディスプレイとPC本体、キーボードといった一式に加えて、天板上にプリンターを載せられることが大きな売りだった。

 しかしプリンターを持たない人が増えたことで、これ一つ買っておけば、PCはもちろん、プリンターの置き場所も解決できますよという、量販店のかつてのセールストークが通用しなくなってしまったのだ。

 そんなPCラックが、今回の新型コロナウイルスの騒動の中、テーブルとは別に作業スペースを構築できるテレワーク向け製品として、あちこちで紹介されていたのは実に皮肉というほかはない。

かじ取りが難しい? ニーズはあるのに売れないジャンル

 ここまで紹介した2つは、純粋に製品のニーズそのものがなくなったパターンだが、ニーズそのものは増えているにもかかわらず、製品が売れなくなるパターンがある。それはその機能が本体機器に吸収されてしまい、単体の製品としては不要になるパターンだ。

 分かりやすいのは無線LAN(Wi-Fi)だ。今でこそ無線LANはどのノートPCにも内蔵されているが、登場直後はオプション扱いで、子機をノートPC本体のPCカードスロットに差し込み、親機との間で通信を行っていた。親機(無線ルーターまたはアクセスポイント)と子機のセット販売も、盛んに行われていた。

 しかし2010年代を迎えるころになると、モバイルノートPCだけでなく、据え置きで使うタイプのノートPCにも、無線LANモジュールが内蔵されるのが当たり前になっていった。つまり「子機不要」になったわけである。2000年ごろ、IEEE 802.11b規格の登場にあたって無線LANに参入したメーカーも、徐々にラインアップを縮小し、現在では親機、つまり無線ルーターの販売がメインになっている状況だ。

 とはいえ親機である無線ルーターを売っている関係上、子機に当たるデバイスをラインアップしないのは都合がよくない。また新しい規格に対応した子機(現在はUSBタイプが主だが)を旧型のノートに取り付けて高速化を図るニーズは少なからずあり、まれに法人案件で何百台という数が出たりするので、完全に撤収するわけにもいかない。

 完全にジャンル自体がなくなるよりも、むしろ踏ん切りがつかないぶんだけメーカーを苦しめるのが、こうしたパターンの特徴だ。

著者:牧ノブユキ(Nobuyuki Maki)

IT機器メーカー、販売店勤務を経てコンサルへ。Googleトレンドを眺めていると1日が終わるのがもっぱらの悩み。無類のチョコミント好き。HPはこちら


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る