シャープ初の社内スタートアップは成功できる? 波瀾万丈のAIoTクラウドが目指す道:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第13回は、AIoTクラウドの松本融社長だ。
SaaSビジネスの「スリーゼロ」と「WIZoT」(ウィジオ)を両輪に
―― 現在のAIoTクラウド共通プラットフォームは、どんな構造になっていますか。
松本 これまで進化させてきたAIoTクラウドプラットフォームをベースにしながら、シャープ向け専用ではなく、独自のクラウドプラットフォームに進化させています。最大の特徴は、機器連携であり、主に「IoT×SaaS」という切り口から、IoT機器との接続によるサービスの提供に強みを発揮できます。
例えばスリーゼロでは、100機種以上のアルコール検知器に対応しています。また、AIoTクラウド共通プラットフォームでは、シャープのAIoT家電から収集した利活用データを収集しており、これを外販するデータビジネスも行っています。
―― AIoTクラウドがフォーカスする「成長市場」の考え方について教えてください。
松本 SaaSのビジネスチャンスがどこにあるのかを考えた場合、法規制の変更によって新たなニーズが創出される市場がターゲットになると考えました。そこで、2021年末に、伸びる市場はどこかということを社内で検討した結果、アルコールチェックの市場に着目しました。後発ではありますが、当社が持つ強みが生かせる市場だと判断しました。
当社では、テレマティクスサービス「LINC Biz mobility」の提供を通じて、運送用トラックや営業車といった業務用車両を保有する企業を対象にサービスを提供してきた経緯があり、その経験や実績が生かせる市場であるとも考えました。
―― アルコールチェック管理サービス「スリーゼロ」の特徴はどこにありますか。
松本 スリーゼロは、安全運転管理者による運転者の運転前後のアルコールチェックの義務化に合わせて提供を開始したサービスです。改正道路交通法では、運転前後の運転者の状態を目視で確認するだけでなく、2023年12月からアルコール検知器を用いた検査の義務化とともに、検知器を常時有効に保持すること、記録を1年間保持することも義務づけられています。
国内において対象となるドライバーは約800万人と想定されていますが、多くの現場では紙を使って記入し、管理しているのが実態です。今後はデジタルによる管理へと移行することが想定され、2027年度には30%にあたる約240万人のドライバーが、クラウドサービスを利用して管理されると見込んでいます。運送大手の中には、スリーゼロのIDを1万5000件以上導入している実績も出ています。2027年度には、この分野で20%のシェア獲得を目指し、売上高40億円にまで拡大させます。
スリーゼロの特徴は、100機種以上のアルコール検知器に対応しており、予算や目的に応じて検知器を選択ができたり、事業所ごとに異なる検知器を導入している場合でも一元管理ができたりします。これだけの機種に対応しているのはスリーゼロだけです。現場の裁量で検知器を導入してしまうことも多く、現場ごとに導入機種が異なるということも多いのですが、そうした状況にも対応できます。
また、車両予約との連動により、車両の予約時間が近づいてもアルコールチェックが行われていない場合には通知を行い、運転日誌をクラウドで管理することで、管理業務の手間を軽減し、直行直帰や出張時の対応も容易になるというメリットもあります。記録をしっかり残すという提供価値がスリーゼロにはあります。
社内ではスリーゼロラインという言い方をしていますが、アルコールチェック管理サービスだけにとどまらず、車両管理分野を中心にスリーゼロの価値を広げるサービスを追加しようと考えています。車両点検やドライバーの免許証の確認など、現場での管理業務は多岐に渡っています。こうしたニーズを捉えて、アルコールチェック管理サービスを起点に、 安全運転全体を支援するサービス へと進化させていきます。
―― 一方で、2024年2月から提供を開始したWIZIoT遠隔監視サービスの特徴は何ですか。
松本 IoTを活用した市場としてどこが伸びるのか、といったことを検討した中で出てきたのが遠隔監視でした。当社が持つ技術を活用すれば、カメラ映像とAI認識技術の組み合わせによって、遠隔監視サービスが提供できると考えました。
WIZIoT遠隔監視サービスは、工場の点検業務の効率化を実現するサービスです。工場などの現場においては、設備に取り付けられているアナログ計測メーターやランプを巡回点検によって目視し、正常に動作していることを確認する作業を行っています。
しかし、高齢化や後継者不足が原因となり、多くの現場で点検業務の省力化が喫緊の課題となっています。WIZIoT遠隔監視サービスでは、業界初となる固定カメラとスマホカメラをハイブリッドで利用できるSaaSにより、遠隔監視を実現しているのが特徴です。新たに設置したカメラによって、アナログ計測メーターなどを撮影し、AI読み取りサービスによってデータ化します。これによって、現場巡回が不要になり、目視による読み取りミスや、手書きによる記録ミスも低減できます。
また、狭い所や暗いところといった点検がしにくい場所、危険な場所も遠隔でカバーできますし、どうしても巡回が必要なところはスマホアプリを使って撮影し、それらのデータを一元的に管理します。設置した1台のカメラで複数のメーターを読むことが可能なので、ここでもコスト削減ができます。今後、監視モニターに表示されている文字も認識できるようにすれば、さらに監視対象を拡張できます。
WIZIoT遠隔監視サービスでは、もう1つ特徴があります。これまでの発想では、シャープが開発した端末を利用してサービスを提供することになりがちでしたが、当社はクラウドサービスセントリックでビジネスを行う企業ですから、最適な端末を選択し、パートナーシップによってサービスを提供することにしています。今回は、ソラコムとの連携により、同社のクラウド型カメラ「ソラカメ」を採用することにしました。
工場などの現場では、さまざまな管理システムを導入してはみたものの、IoT化しきれていない工場設備が混在しているため、点検業務の負荷が大きいというケースが少なくありません。ガス会社ではガスタンクの残量監視、化学製造では液体タンクの圧力監視、組立製造ではポンプの流量監視、食品製造では温度や湿度の監視、農家では穀物の残量管理などが可能になります。
2024年2月に発表して以降、既に多くの商談案件をいただいており、約10社での試験導入が始まっています。また、一緒にビジネスを進めたいというパートナーからの問い合わせもあります。実はシャープの工場からも、WIZIoT遠隔監視サービスを使いたいという要望が出ていますよ(笑)。
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