> コラム		2003年11月17日　12:11 PM 更新

嗜好品的PCは僕の中で成り立つか（2/2）

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　しかし個人の購買行動は、たとえそれが1万円以下の製品であったとしても慎重になるものだ。自分の財布からお金を出す、ということもあるが、自分で選び個人的に利用するモノに対して、（人前ではなんと言ったとしても）まったく思い入れなしにいられる人も少ないのではないか。

　条件を積み重ねていけば、自分の利用スタイルに合わせた適切なPCを選ぶことができるだろう。機能やスペックの面では充足したモノ選びができるはずである。しかし、それが満足に繋がるか？というと疑問を感じずにはいられない。

　PCは実用品である、という基本原則に逆らおうとは思わないが、いくら仕事に使うとか、学校で必要だから、ネットに繋ぎたいだけ、などなど実用的な理由を並べたとしても、個人が購入するモノにはどこかに嗜好品的要素が入り込むと思う。

　X505が気になる。いや、できれば所有してみたい。ひょっとすると、X505でも仕事ができるんじゃないか。なになに、工夫すれば絶対イケるハズだ。と、X505を実際に使っていると次第に心変わりしてくる自分がある。

　PCはクルマやバイクとは違う。と、頭の中で分かっていても、その心が揺り動かされるのは、PCに対して機能やスペックだけでなく、精神的な充足感を求めているからにほかならない。

　ソニーがX505を開発した意図が、バイオシリーズに新しいヒット商品を生み出したいからなのか、それともこうしたホンモノを求めて突き動かされる衝動をバイオで感じてもらい、それを「バイオ」というブランド力の強化へとつなげたいと考えているのか。部外者は想像することしかできないが、少なくとも筆者を含めて何人かのX505に触れた面々が、近年今ひとつ面白味に欠けていたPCという商品に対する見方を変えたのは事実である。

脱コスト主義のバランス製品“も”求む

　とは言うものの、やはり実際に購入となると二の足を踏んでしまう。これは価格が高いからではない。自分の使い方にピタリと当てはまり、さらに満足が得られるならば、価格の高さはそれほど障害にはならないと思う（これは筆者が“PCを使うこと”を職業といるからだが）。

　X505はソニー自身が話しているように、一部のトップエッジのユーザーを対象にした製品だ。薄く、軽く、そしてカッコいい。その点は十分に満足させるものの、それ以外の点で議論を始めてしまうと、とたんに分が悪くなる。

　たしかに、サブノートPCを変えた傑作と称えられた「大ヒット」初代505も、決してバランスが取れた製品ではなかった。1GバイトしかなかったHDD、感圧式（通常は静電容量検出式）で驚くほど使いにくかったタッチパッド、おまけ程度のバッテリー駆動時間など、X505ほどではないにしろ「尖った」製品だった。

　しかし初代505は様々な改良が続けられ、一般的な9.5ミリ厚HDDを採用したり、高速CPUへと切り替わったN505へと発展するなど、そのデザインは息の長いものになった。これはおそらく、初代505が実にソニーらしい製品だったからだと思う。

　「ソニーらしい製品」とは非常に曖昧だが、筆者の中ではこれを勝手に「カッコよくて尖った要素があるけれど、実用面でもギリギリのところでバランスが取れていて、万人向けに誰もが入手しやすい量産製品」と位置付けている。ソニーはこれまで、エレクトロニクスの力で、それまで「高嶺の花」だったデバイスを、筆者でも購入できる身近なものにしてくれた。

　中学時代いつも一緒に遊んでいた友人の実家が、ソニーの特約店を経営していた。毎日通った彼の実家で感じていたソニー製品の皮膚感覚と、X505はちょっと違う。X505にはソニーの製品というよりは、ソニーらしさと異なるクオリア的な「製品に対する気合い」のベクトルを感じるのである。

　X505の登場は本心から歓迎したい。多少行き過ぎの感はあるものの、脱コスト至上主義は製造や流通の効率だけを追い求める現在のPC業界に対するアンチテーゼとして必要だとも思う。MDサイズの基板やデザインのこだわり、トータルコーディネートなどなど、「やればここまでできる」的なPCの可能性を十分に示している。

　ここで見せた可能性を、ソニー的ギリギリ実用品なバランスのとれた製品へと応用してくれれば、おそらく数割高い価格であったとしても、飛ぶように売れるのではないだろうか。誰もが購入したくなるウェルバランスだけどカッコいいPC。競合製品の中に埋もれない製品ラインアップの完成に期待したい。

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[本田雅一, ITmedia ]

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