インクジェットプリンタ絵作り大研究――第1回「自動調整時の色合い」(1/5)写真画質機の性能が上がり、粒状感の有無といった即物的な評価尺度が過去のものになるにつれ、より重要になってきているのが各プリンタの色味や癖、すなわち“絵作り”の特性だ。では、最新インクジェットプリンタの絵作りの研究報告を始めたいと思う。
今年の年末商戦も大詰めを迎え、インクジェットプリンタ市場における売り上げランキングも落ち着きを見せ始めた。昨年、単機種での売り上げでトップを快走したキヤノン「PIXUS 550i」の後継機種「PIXUS 560i」は、そのトップの座を、実売価格の引き下げで買い得感が増した「PM-G800」に譲らんとしている。商戦初期には廉価版の「PM-G700」も、560iとのトップ争いを演じた。 加えて、写真プリンタとしての最上位を争う「PX-G900」と「PIXUS 990i」でも、990iが価格引き下げを行っているにも関わらずG900の後塵を拝している。昨年も最上位モデルでの争いはエプソンが有利に商戦を進めたが、価格はほぼ同じだったのとは対照的である。 また、単機能プリンタの売り上げランキングには入ってこないが、エプソンのインクジェット複合機「PM-A850」は、高解像度のフィルムスキャナ機能やカラー液晶ディスプレイ、豊富な写真印刷機能を搭載。プリントエンジンにPM-G700と同じものを採用するなど贅沢なハードウェア構成を採りながらも、実売価格は3〜3.5万円にまで落ちており、予想を上回る売り上げを記録しているようだ。 もっとも、品不足に陥っていないことを考えると、エプソンはA850がここまでのヒットを記録すると予測していたのかもしれない。量販店での取材では、PIXUS 560iと同等、あるいはそれ以上の台数が売れているという。昨年、日本ヒューレット・パッカードは、実用機としてのインクジェット複合機のスタンダードを「psc 2150」で作ったが、今年はエプソンが写真出力機としてのインクジェット複合機のスタンダードをA850で確立したと言っても過言ではない。 このように、2003年末のインクジェットプリンタ市場を俯瞰すると、台数シェアで迫り、単月集計では追い抜くこともあったキヤノンを、エプソンが返り討ちにした図式が見えてくる。それとともに、複合機市場でやっと掴んだ復活の芽を生かし切れなかった日本ヒューレット・パッカード、単機能機ではなんとかエプソンの後ろを付いて行っているものの、複合機では大苦戦しているキヤノンの姿も見える。 もっとも、こうした結果はインクジェットプリンタに詳しい人なら、ある程度は見えていたのではないだろうか。一部には「保存性」に訴求点を絞ったエプソンの戦略に疑問を呈する声もあったようだが、従来のインクジェットプリンタが抱えていた最大の弱点である「保存性」を克服したエプソンの製品は、多いにコンシューマーの心を捕らえたようだ。また、“これでもか”と言わんばかりに機能を満載したA850の素性のよさも高く評価されている。
とはいえ、ユーザーニーズが多様化し、価格レンジごとに多様な製品が群雄割拠するインクジェットプリンタ市場において、売り上げランキングは各社のビジネス状況を示す指標にはなるものの、“自分にとって最適な製品”を選ぶための指標とはなり得ない。 すでにインクジェットプリンタの評価記事は多数掲載されているが、それに加えて、ここでは「各プリンタの色味や癖」を比較することに挑戦してみたい。それを行ううえで、評価の視点を三つ設定してみた。 一つ目は、各ドライバの自動調整による色合い比較。このモードは、各社の絵作りの方向かもっとも良く出るうえ、ユーザーが特に意識して印刷しない場合に最も使われる頻度が高いと考えられるからである。 二つ目は、各ドライバの自動修整機能を有効にした場合の色合い比較。自動修正機能は、露出不足や逆光などの失敗写真やホワイトバランス、露出のブレなどを自動的に補正してくれる反面、自動補正の判断が間違っていると、元画像の雰囲気を損ねてしまう場合もある。どのように自動修正が作用するのかを比較検討する。 三つ目は、キヤノンも新たに対応した純正用紙ごとのICCプロファイルを使用した場合に、どの程度、狙った色が出てくれるのかについて。ここではユーザーが狙う色の出しやすさについて考えてみる。 初回の今回は、自動調整による色合い比較を行った。 なお、比較に使用する機種は3台に絞り込んでいる。エプソンからPX-G900とPM-G800、キヤノンからPIXUS 990iをピックアップした。この機種選定には、もちろん理由がある。 まず、“色合い”や“絵作り”といった視点を考えるユーザーは、画質に対してよりセンシティブであろうとの理由から、6色インク以上を採用する上位機種からピックアップしている。エプソンが2機種となったのは、顔料機と染料機で色味が異なるためである。 日本ヒューレット・パッカードの製品は、派手な絵作りが流行する中、(一部マゼンタから赤にかけての発色にややくすみを感じるが)ナチュラルで大きな誇張の少ない絵作りは高く評価している。しかしながら、写真印刷時のランニングコストが非常に高価であること(実験的に行った試験では、エプソンやキヤノンに比べると3倍以上、最悪値では4倍近いインクコストとなった)、画質評価の基準となる純正の写真用紙に全く耐水性がないこと(インク定着層が水分に溶けて流れてしまう)などの問題があり、今回は選外とした。画質そのものは、近年大きく向上しているだけに、今後の改善に期待したい。 なお、テストに使用したオリジナルの写真データは、こちら(サイズは約35Mバイト)にアーカイブとして置いておく。また、印刷結果はエプソンの「GT-X700」を用いてICMモードでスキャンし、sRGBデータとして保存しているが、シャドウ部の階調の違いが分かるよう、多少シャドウを浮かすように露出を微調整している。
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