全国8000万か所に設置へ、企業と家庭で節電が進む:連載/スマートメーターが起こす電力革命(1)
今後の電力ネットワークで「スマートメーター」が果たす役割は大きい。従来のメーターと違って、企業や家庭の電力使用量を30分単位で計測できるため、需給状況に応じて変動する料金プランや節電に有効な新しいサービスを実現しやすくなる。政府は5年後に8割の導入率を目指す。
電力会社の設備と言えば、まず発電所を思い浮かべる人が多いだろう。しかし我々にとって最も身近な設備は、各家庭に設置されている電力メーターである。日本国内で電力を使っている家庭や企業の契約者数を合わせると8000万以上にのぼり、現実に8000万台以上の電力メーターが全国各地で動いている。
ところが現在の電力メーターのほとんどは旧式のもので、使われている電力の量を積み上げた合計値をメーターに表示しているだけである(図1)。自動車の走行距離メーターと同様だ。メーターの数値を電力会社の検針員が毎月チェックして、前月との差分によって月間の使用量を計算している。その検針作業が全国の8000万か所で毎月行われているわけだ。
電力の“見える化”にもデータを活用
電力メーターに通信機能を持たせれば、この膨大な検針作業は不要になり、電力会社にとっては相当なコスト削減につながる(図2)。それを具体化したものが「スマートメーター」である。すでに欧米の電力会社ではスマートメーターの設置が着々と進められており、日本の電力会社も遅ればせながら開発・導入に本腰を入れ始めたところだ。
スマートメーターの外観は、従来の電力メーターと大して変わらない。ただし内部には電力の計量と合わせてデータ通信の機能を搭載する(図3)。機能の詳細については次回に説明するが、基本的な役割は一定時間ごとに電力使用量を測定して、そのデータを電力会社のセンターに送る一方、企業や家庭のシステムにもデータを送って電力使用量の“見える化”を支援する。
現在のところ各電力会社が採用するスマートメーターは30分単位の電力使用量を測定して、ネットワーク経由でデータを送信する仕様になっている。このデータを利用して電力会社は時間帯別の料金プランを柔軟に設定することが可能になり、利用者側でも実際の電気料金を常に把握することができるようになる(図4)。
さらに夏の昼間など電力の需要が供給量を上回りそうな場合に、節電に協力した利用者に対してインセンティブが与えられる「デマンドレスポンス」などの新しいサービスも実施しやすくなる。スマートメーターの導入によって効率的な電力の利用法が全国に広がっていく期待は大きい。
5年後に8割の電力需要に対応へ
現時点でスマートメーターに対する取り組みは電力会社によって差がある。最も先行しているのは関西電力で、すでに試験を兼ねて合計100万台以上を設置済みと発表している。スマートメーターを設置した企業や家庭に対しては、日別・時間帯別の電力使用量をグラフで表示するサービスをウェブサイトで提供中だ(図5)。
関西の次にスマートメーターの導入が進んでいるのは九州電力で、これまでに18万台を設置した。そのほかの電力会社は一部の地域に1000台程度を導入して試験サービスを実施している状況である。
とはいえスマートメーターの普及は政府が国を挙げて推進することを決めており、5年後の2016年度には電力の総需要量に対して8割をスマートメーターで対応できるようにする目標を掲げている。順番としては総需要量の3分の2を占める企業を中心とした大口の利用者から設置していき、最終的に家庭を含めた全利用者にスマートメーターを展開することになる(図6)。
電気事業連合会が2012年3月にまとめた時点では、東京電力・中部電力・関西電力の3社が5年後に8割、北陸電力が7割、残る5つの電力会社が6割の電力需要をスマートメーターで対応できるようにする計画を立てている。沖縄電力だけは5割にとどまる見込みである。
最も多くの利用者を抱える東京電力の場合は、2年後の2014年度から本格的に導入を開始して、2018年度までに全利用者の6割強に相当する1700万台を設置する方針を打ち出している。これで総需要量の8割をカバーできる。
さらに2023年度までには2700万の利用者すべてにスマートメーターの導入を完了する計画だ。現在はスマートメーターの仕様を最終的にまとめているところで、2012年度末までに詳細な仕様を確定して、2013年度に競争入札方式でメーカーに発注する予定になっている(図7)。
コストと仕様が大きな課題に
これからの電力の利用法を大きく変革するスマートメーターだが、普及に向けて最も懸念される点はコストと仕様の2つである。
現在のスマートメーターは1台あたり2〜3万円が相場になっており、各電力会社は大量導入に向けて1万円以下に抑えたい考えだ。それでも東京電力を例にとると、年間に300万台以上のスマートメーターを5年以上にわたって導入する必要があり、単純に計算すると毎年300億円規模の費用が発生する。政府からの補助金が見込まれるものの、経営状況が厳しくなっている電力会社にとっては大きなコスト負担であり、最終的には我々が支払う電気料金に反映される。
もう一方の仕様に関しては、企業や家庭などの機器やシステムとスマートメーターを連携するための通信プロトコルが最大の課題になっている。この通信プロトコルが各社のスマートメーターでバラバラに決められてしまうと、将来に向けて電気機器やBEMS/HEMS(ビル向け/家庭向けエネルギー管理システム)との連携に制約が出るばかりか、当然コストにも影響してくる。
この仕様の問題はスマートメーターで実現する新しいサービスとも密接に関連する。次回に詳しく解説する。
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