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火力発電の弱点を補う「二酸化炭素回収」キーワード解説

火力発電は高効率で運用しやすいが、化石燃料を使うため、二酸化炭素を大量に排出するという欠点がある。二酸化炭素を大気中に放出しないようにする取り組みが必要だ。二酸化炭素の分離、回収、貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)に関する制度や技術について紹介する。

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 火力発電は現在の日本の総発電量の約9割をまかなう重要な電源だ。火力発電にはさまざまな長所がある一方、欠点もある。短期的・中期的には燃料費が変動し、次第に高価になっていくことが大きい。長期的には運転時に二酸化炭素(CO2)を大量に排出することが課題だ。人為的に排出される二酸化炭素のうち、約4割が火力発電に由来する。

 二酸化炭素の排出量を減らす取り組みでは国内に先進技術が集まっている。火力発電の中でも二酸化炭素の排出量が少ない天然ガス火力を優先することが第1だ。第2に火力発電の高効率化がある。効率が上がるということは、同じ電力を得たとしても排出する二酸化炭素の量が減ることにつながるからだ。

 天然ガス火力であれば、単純な汽力発電をコンバインドサイクル発電に置き換えていく。石炭火力であれば、超臨界圧発電や超々臨界圧発電、さらには石炭ガス化複合発電などの技術を取り入れる。いずれも効率を高め燃料から取り出せる電力の量を増やす手法だ。

CCS技術の広がり

 だが、これだけでは二酸化炭素の排出量が十分には減らない。そこで第3の取り組みとして、二酸化炭素の分離、回収、貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)技術の開発が進んでいる。

 CCS技術の基本的な考え方は単純だ。火力発電所から大気中に放出されていた二酸化炭素だけを排ガスから分離・回収し、回収した二酸化炭素を貯留する。

 CCSを推進するための法制度の整備ではEUが進んでいる。2009年には地下貯留に関する枠組みを決めたCCS指令を施行している。資金面でも欧州エネルギー復興プログラム(EEPR)を進めており、イタリア、英国、オランダ、スペイン、ドイツ、ポーランドなどでCCS実証プロジェクトが始まっている。2010年にはNER300と呼ばれる実証プロジェクトが始まった。二酸化炭素のEU排出枠3億トン分を売却することでCCSの実証プロジェクトを支援する動きだ。この実証プロジェクトの目標は高く、2015年末までに貯留を含めた運用開始を義務付けている。

 国内では2016年以降に経済産業省が「二酸化炭素削減技術実証試験」を実施予定だ。二酸化炭素の取扱量は10万トン以上。分離・回収だけではなく、海底下深部塩水帯水層への貯留可能性を探る。

どのように分離・回収するのか

 それではCCS技術ではどのように二酸化炭素を取り扱うのだろうか。

 分離・回収については3種類の技術がある。ボイラーで燃料を燃やす前に回収する燃焼前回収、燃焼後に回収する燃焼後回収(図1)、空気と燃料を混合するのではなく、酸素と燃料を混合し、排ガス中の二酸化炭素濃度を80%近くまで高めてから回収する酸素燃焼だ。


図1 東芝が福岡県で運用中の実証プラントの構造。燃焼後回収だ。出典:東芝

 燃焼前回収は石炭火力発電を新設する場合に向いている。石炭をそのまま燃やすのではなく、あらかじめガス化炉で水蒸気を加えて、二酸化炭素と水素(H2)に変化させ、ボイラーに送る前に二酸化炭素だけを回収する。実用化時期に入った石炭ガス化複合発電とも組み合わせやすい。ガス化炉の使用が前提になっているからだ。

 燃焼後回収は既存の火力発電所に後から設備を追加する場合に向いている。ただし排ガスに含まれる二酸化炭素の濃度が15%程度と低いため、回収技術が高効率でなければならない。

 国内では東芝や三菱重工、新日鉄住金エンジニアリングなど複数のメーカーが分離・回収プラントの大規模化計画を進行中だ。

 CCSで最も困難なのは貯留だ。分離・回収した二酸化炭素を大量に運搬し、貯留用の大規模施設を設計、建設、運用しなければならないからだ。

 さきほどのEEPRによるCCS実証プロジェクトでは、英国とオランダが海底枯渇ガス田への貯留を狙っている。イタリアとスペイン、ポーランドは塩水帯水層だ。日本では貯留可能性の評価が進んでおり、2011年時点では北陸や東北、北関東など10カ所弱の候補地が見つかっている。

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