日本発の海洋発電技術、新構造採用で2020年には1kWh当たり20円が実現か:自然エネルギー(2/2 ページ)
ジャパン マリンユナイテッドと佐賀大学は共同で没水型海洋温度差発電に向けた浮体構造の開発に成功した。台風など天候に変化に左右されにくく、安定した発電の基盤になる構造だという。海洋温度差発電と今回の構造の関係を解説する。
国内企業が没水型の構造の開発に成功
こうした中、2013年9月、ジャパン マリンユナイテッドが佐賀大学と共同で海洋温度差発電に向けた浮体式の没水型構造物の設計に成功した(図1)。
10MW級の発電が可能な浮体構造である。図1上は浮体をほぼ真上から見たところ、図1下は横から見たところだ。浮体の上にヘリ用のプラットフォームが載っているため、多少分かりにくいが、本体は八角形の構造物だ。海面上に現れている部分は図1にあるようにさほど大きくないが、海中の部分はちょうど「こま」のように膨らんでいる。「八角形の『直径』に相当する幅が82.26mある。海面下の構造物の深さは約70mだ。その下にさらに800〜1000mの導水パイプがつながる」(ジャパン マリンユナイテッド)。
同社はJFEホールディングスとIHIが45.93%ずつ、日立造船が8.15%出資して2013年に設立された企業だ。しかし歴史が浅い企業ではない。国内の4つの造船関連の企業が次々と合併してできた企業であり、古くはIHIの石川島播磨造船所(1853年創設)にさかのぼる。現在は商船・海洋事業の他、艦船事業やエンジニアリング事業に取り組む。つまり、海に浮かぶ船舶や構造物の設計、開発に強みがあるということだ。佐賀大学は国内の大学の中で海洋温度差発電の研究が最も進んでいる。
設計に成功したというのはどのような意味だろうか。陸上の建築物に構造計算書が必要なように、海上の構造物や船舶は日本海事協会の概念承認(AIP:Approval In Principle)が必要だ。海洋温度差発電に向けた浮体式の没水型構造でAIPを受けたのは世界初だという*1)。「AIPを受けたことで、お墨付きを得たことになり、実際の設計や建造に進むことができる」(ジャパン マリンユナイテッド)。
*1) スパー型の装置では、2011年に米OTEC Internationalが10MW級で米船級協会(ABS:American Bureau of Shipping)から認証を受けている。ABSは日本海事協会に相当する米国の団体だ。
次は熱交換器の小型化へ
今後は2020年以降に今回の構造を利用した実用的な海洋温度差発電装置を建造するもくろみだ。「現在残っている課題は発電効率向上のために必要な熱交換器の小型化だ。5〜10年で実現可能だ」(同社)。熱交換器と熱サイクルの要素技術では、佐賀大学と神戸製鋼所が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で共同開発を推進中だ。目標は発電コスト20円/kWh以下。2012年時点の評価によれば、10MW級の浮体式では浮体などの開発とともにコスト削減を進めることで、量産時にはこの発電コスト目標に到達できる可能性があったという。
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