海に浮かぶ変電所から福島県内へ、水中と海底に3種類の送電ケーブル:世界に先駆ける洋上プロジェクト(2)
陸地から遠く離れた場所に設置する浮体式の洋上風力発電では、水中と海底を通って長距離に電力を送る必要がある。福島沖に敷設する送電線のうち、水中に浮遊する部分には特別に「ライザーケーブル」を開発した。巨大な発電・変電設備の揺れに耐えながら高圧の電力を送ることができる。
第1回:「いよいよ福島沖で試運転へ」
大型の発電設備の運転と合わせて、福島沖で取り組む重要な実証項目が変電と送電だ。陸地から18キロメートルも離れた洋上で発電した電力を、いかに安全に、しかも損失を少なく陸地まで送ることができるか。かなめになるのは洋上に建設する変電設備と、水中で電力を送るケーブルである(図1)。
高圧の66kVで送電して損失を防ぐ
一般に電力を長距離に送ると、送電線の中を電力が通過する間に一部が失れてしまう。送電した先では何パーセントか電力が減っている。この損失を少なく抑えるためには、できるだけ電圧を高くして送ることが望ましい。
福島沖では解決策として変電設備を洋上に設置して、電圧を引き上げてから海底ケーブルで陸地まで送る方法を採用した。2014年度に増設する2基の超大型発電設備を含めて、合計3基の発電設備からの電力を洋上の変電設備で22kVから66kVに変換する。
当然ながら変電設備も洋上に浮かばせる必要がある。大型の風車を付けた発電設備と比べれば規模は小さいとはいえ、それでも全体の高さは110メートルある。下半分は水中に潜る構造で、発電設備と同様に波の揺れや潮の流れを抑える仕組みになっている(図2)。
ここで難しい問題がひとつ出てくる。発電設備も変電設備も洋上で揺れ動くために、2つの設備をつなぐ送電ケーブルが常にさまざまな方向に引っ張られる。
しかもケーブルは水中で浮遊している。通常の送電ケーブルでは耐えられない過酷な環境になるわけだが、それでも長期間にわたって故障なく電力を送り続けなくてはならない。
特別に開発された水中用のケーブル
そこで福島沖の送電ケーブルには3種類を使い分けることにした。1つ目は発電設備から変電設備までの水中ケーブル、2つ目は変電設備から海底までの水中ケーブル、最後は海底に埋設するケーブルである(図3)。このうち水中で送電する2種類は「ライザーケーブル」と呼ぶ特殊なケーブルを開発した。
2種類のライザーケーブルは強い力で引っ張られても耐えられるように、周囲を何層もの異なる材質でカバーする(図4)。電圧の高い66kV用のライザーケーブルは直径が18センチにもなり、長さ1メートルあたりの重さは55キログラムある。重いケーブルが海底に接触して摩耗しないように、中間にブイを付けて水中に浮かせる方法をとる。
こうして発電設備から22kVの電圧で水中のライザーケーブルを通して変電設備まで電力を送り、66kVに電圧を引き上げてから海底ケーブルまで送り出す。さらに海底ケーブルで陸上まで約23キロメートルの長距離を、66kVの高い電圧のまま損失を少なくして送電する。浮体式の洋上風力では送電にも高い技術とコストが要求される。
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