洋上風力の買取価格を新設へ、陸上よりも高く30円前後に:法制度・規制
日本の再生可能エネルギーの中で、太陽光に次いで潜在量が大きいのは風力だが、今のところ期待したほどには増えていない。買取価格が実際の発電コストに見合っていない可能性もあり、政府が見直しに動き出した。新たに洋上風力の買取価格を高めに設定することになりそうだ。
固定価格買取制度の買取価格は初期の「建設費」と毎年の「運転維持費」をもとに、1kWhの電力を作るのに必要なコストを算出して決めることになっている。この制度を開始する前のデータによって、風力発電は太陽光など他の再生可能エネルギーと比べて低めに見積もられた可能性があり、買取価格が不利に設定されているのではないかとの懸念が強まりつつある。
特に問題になっているのが洋上風力である。資源エネルギー庁が11月中に専門家による研究会を発足させて、12月末までに洋上風力の買取価格の案をとりまとめることになった。これまで洋上風力は陸上風力と区別せずに同一の買取価格を適用してきたが、2014年度からは単独の買取価格を設定する見込みである。
2012年7月に固定価格買取制度を開始するにあたって、当時の政府が再生可能エネルギーの種類別に発電コストを算出した。それによると、洋上風力は発電設備を海底に固定する「着床式」を対象にして、2020年時点の発電コストを1kWhあたり9.4円〜23.1円と広い幅で見積もっている(図1)。陸上風力とさほど変わらず、太陽光と比べると半分以下の水準だ。
このため風力発電の買取価格は出力20kW以上の設備に対して一律で22円に設定した。最近になって洋上風力発電設備が稼働し始めたことから、実績データをもとに建設費と運転維持費を算出することが可能になった(図2)。現時点で民間企業が運営する洋上風力は着床式だけであり、2014年度から着床式を対象にした買取価格を新設する公算が大きい。
買取価格を検討するうえで重要な論点のひとつは「設備利用率」である。設備利用率は発電設備の出力に対して実際に得られる発電量の割合を示すもので、発電コストを大きく左右する指標になる。天候の影響を受ける太陽光や風力は設備利用率が低く、太陽光は12%、風力は20%が標準的だ。ただし風力は場所によって年間の平均風速に大きな差があるため、標準値の設定が難しい。
洋上では平均風速が陸上を上回ることが多く、政府が買取価格の判断材料にした発電コストの試算においては30%に設定していた。その結果、陸上よりも発電効率が1.5倍になり、建設費や運転維持費が高くても1kWhあたりの発電コストは陸上と同等の水準まで下がるとみなした。
今後は発電事業者から実績データの提供を受けて比較検討することになるが、現在までの着床式は設置場所が陸上に近く、設備利用率は30%を下回る可能性が大きい。一方で洋上風力の建設コストは当面下がる状況にはなく、買取価格を陸上よりも高めに設定する方向で検討が進むだろう。陸上風力の買取価格22円に対して、着床式の洋上風力は1.5倍を少し下回る水準と考えれば、30円前後が妥当な価格と言えそうだ。
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