CO2フリーのエネルギーに、水素を太陽光やバイオマスから作る:水素エネルギーの期待と課題(2)(2/2 ページ)
水素はさまざまな方法で製造することができる。現在のところ石油や天然ガスなどの化石燃料から作り出す方法が一般的だが、CO2を排出しないように再生可能エネルギーを使って水から製造することも可能だ。最大の課題はコストを引き下げることで、技術革新による変換効率の改善がカギを握る。
商用化が進むバイオマスからの製造方法
バイオマスから水素を作り出す方法として代表的なものが「ブルータワー技術」である。木質バイオマスを高温で分解してメタンガスを発生させてから、高温の水蒸気を使って水素を取り出す仕組みだ(図4)。メタンガスから水素を生成する工程ではCO2を排出するものの、光合成によってCO2を吸収する木質バイオマスを利用しているためにCO2フリーとみなすことができる。
ブルータワー技術を使った商用プラントの第1号として、福岡県の大牟田市で2012年から水素の製造が始まっている。近隣の森林から派生する間伐材で作った木質チップを利用する。1日あたり15トンの木質チップを使って7200立方メートルの水素ガスを製造することが可能だ。
例えば燃料電池自動車が必要とする水素の量を考えると、現在のところ500キロメートルを走行するのに60立方メートル程度の水素ガスを必要とする。1日に7200立方メートルの水素ガスを製造できれば、燃料電池自動車で6万キロメートルを走行できる計算になる。
ブルータワーはガスコージェネレーションと組み合わせて、水素と同時に電気と熱を供給することもできる。通常のバイオマス発電と比べて総合的なエネルギー効率を高くできる利点がある。木質バイオマスを活用した地域振興策として、岩手県の宮古市や石川県の輪島市など全国4カ所でも建設計画が進んでいる。
再生可能エネルギーによる「Power to Gas」
水素の製造方法の中で将来の期待度が最も大きいのは、再生可能エネルギーの余剰電力を利用するアプローチだ。とりわけ太陽光と風力は天候によって発電量が大きく変動するために、安定した電源として使いにくい難点がある。
発電量が大きくなった時の余剰電力を使って水を電気分解すれば、電力を水素に変換して貯めておくことができる。水素は燃料電池自動車などに利用できるほかに、水素発電で電力に再変換することも可能だ(図5)。これが実現できると、発電量が安定しない太陽光や風力を最大限に生かしたエネルギー供給システムになる。
再生可能エネルギーの導入が進んでいる欧米では、余剰電力から水素ガスを製造する「Power to Gas」として注目を集めている。特にドイツで技術開発プロジェクトが数多く実施されているほか、風力発電が盛んな北海の周辺では大規模な実証プロジェクトが進行中だ。まだ日本国内では実例がないが、特に再生可能エネルギーの拡大余地が大きい北海道や沖縄では将来の有効な対策になる。
最大の課題はコストである(図6)。そもそも再生可能エネルギーの発電コストがまだ高い。そのうえで水素に変換する必要があるために、化石燃料から製造する方法と比べてコストが3倍以上になってしまう。電力から水素に変換する効率を高めることが1つの解決策で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2014年度から研究開発プロジェクトを開始した。
2015年に燃料電池自動車の市販が始まれば、水素の供給量が拡大していくのと合わせて製造コストの問題も徐々に解消できる見込みだ。安く大量に製造した水素が日本全国に広がっていく日は遠くない。
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