水素による「エネルギーキャリア」、2018年に低コストの製造技術を確立:自然エネルギー
政府が2014年度から開始した「エネルギーキャリア」の開発プロジェクトが2年目に入る。1年目を上回る30億円の予算で5つのテーマに取り組む計画だ。再生可能エネルギーやアンモニアを利用して水素を安価に製造・利用できる技術などを2018年までに開発して実証する。
2014年度に始まった内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、科学技術の分野で重要性の高い10の課題が取り上げられている。その1つが水素を使った新しい「エネルギーキャリア」の開発である。再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を低コストに製造・利用できる技術を確立することが最大の目的になっている(図1)。
2018年度までの5年間で取り組むテーマは主に5つある(図2)。中核になるのはアンモニアを利用して水素を高効率・低コストに製造するための技術開発だ。太陽熱のエネルギーで水を電気分解して水素(H2)やアンモニア(NH3)を製造する技術のほか、アンモニアから低コストで水素を製造する技術などを開発する。
2015年度中に要素技術を開発したうえで、2016年度から実証装置の試作やシステム化を進めて、2018年度に実証に入る予定だ(図3)。研究開発は千代田化工建設や日揮をはじめ国内の主要企業に加えて、大学や研究機関が参画してオールジャパンの体制で推進していく。
アンモニアと並んで「有機ハイドライド」による水素の輸送・貯蔵システムも重要な研究テーマになる。有機ハイドライドは気体の水素ガスを液化して輸送する方法の1つである。SIPでは太陽光や風力などの再生可能エネルギーで作った電力を使って、有機ハイドライドによる水素の分離・精製に取り組む。さらに水素ステーションで液化水素から燃料電池車に水素を供給できるシステムも構築する計画だ。
2018年度までに実証したエネルギーキャリアの技術は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを機に実用化のフェーズに入る(図4)。水素で走る燃料電池バスを使って選手や観客を競技場に輸送するほか、水素を燃料にして発電する「水素タービン」で選手村などの施設に電力や熱を供給できるようにする。
東京オリンピック・パラリンピック後の2020年代には、高効率の水素発電や大規模な水素タウンの実証を進めて実用化を加速させる戦略である(図5)。2030年代には大規模な水素発電所から電力を供給する一方で、再生可能エネルギーによるCO2フリーの水素を大量に製造するインフラを構築する。世界で最先端の水素社会と水素産業を形成して国際競争力を高めていく狙いだ。
日本の将来に向けて水素の重要性は極めて大きい。SIPによるエネルギーキャリアの技術開発が国家戦略の成否を大きく左右することになる。
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