復興を果たした太平洋沿岸の工場の隣に、木質バイオマス混焼発電所を建設:電力供給サービス
日本製紙の洋紙事業の中核を担う宮城県の石巻工場は震災から1年半で設備の復旧を完了して復興にこぎつけた。新たに工場の隣の用地に、石炭と木質バイオマスを混焼できる火力発電所を建設する。発電能力は14万9000kWで、最大で30%の木質バイオマスを混焼する予定だ。
発電所を建設する場所は、太平洋沿岸の石巻港に広がる工業用地の一角にある(図1)。宮城県が開発した「雲雀野(ひばりの)地区」と呼ぶ工業用地の中に、地域の木質バイオマスを混焼する石炭火力発電所を建設する計画だ。
日本製紙が三菱商事と合弁で5月下旬に設立する「日本製紙石巻エネルギーセンター」が発電事業者になる。建設用地の隣には日本製紙の石巻工場があり(図2)、発電設備の運転・保守は日本製紙が担当する。
石巻工場では従来から自家発電設備で電力をまかなっている。燃料には石油や石炭のほかに、製紙に伴って発生する木くずも利用してきた。震災で大量に発生した木質系のがれきも燃料として受け入れている。こうした火力発電設備の操業技術と木質バイオマスの調達力を生かして電力事業を拡大する。
新設する発電設備は電力会社の火力発電所に匹敵する14万9000kW(キロワット)の出力を予定している。燃料はコストの安い石炭を中心に、木質バイオマスを最大で30%混焼させる。周辺地域で発生する間伐材などの未利用木材のほか、石巻港の立地を生かして海外から木質バイオマスを輸入することも検討する。3年後の2018年3月に運転を開始できる見込みだ。
日本製紙は成長戦略の1つにエネルギー事業を掲げて、全国各地に展開する工場を中心に発電設備の増強を進めている(図3)。従来は工場内で利用した後の余剰電力を電力会社などに供給してきたが、今後は売電を目的に発電設備を拡大していく。
バイオマス発電では熊本県の八代工場に発電能力5MW(メガワット=1000kW)の設備を建設中で、2015年内に稼働する予定だ。地域の未利用木材を100%利用して、固定価格買取制度を通じて売電する。
さらに静岡県の富士工場では10万kW級の石炭火力発電所を三菱商事・中部電力と合弁で建設中だ。2016年5月に運転を開始する予定で、発電した電力は新電力のダイヤモンドパワーに供給することが決まっている(図4)。
石巻市に建設する木質バイオマス混焼発電所の電力も新電力に売電する方針だ。同様にダイヤモンドパワーに供給するか、すでに新電力として登録済みの日本製紙みずからが東北地域で電力を販売する可能性もある。
日本製紙は中長期の目標として電力事業の売上高を年間500億円の規模に拡大する構想を打ち出している(図5)。2013年度には自家発電設備の余剰電力を中心に180億円の売上高があった。2015年度からは新規に開発する発電設備で電力事業の売上を伸ばしながら、中核事業の製紙にエネルギーやバイオケミカルを加えた「総合バイオマス企業」を目指す。
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