電力が生み出す情報サービス、1万4000世帯をつないで本日開始:スマートシティ
電力会社を除く民間企業と自治体34法人による大規模な情報サービスが本日5月11日に始まった。全国に分散する1万4000世帯の家庭に設置したスマートメーターとHEMSで収集した電力使用量のデータを活用する試みだ。小売全面自由化に向けて情報サービスでも競争が激しくなる。
経済産業省が主導して2014年度に着手した「大規模HEMS情報基盤整備事業」の2年目のプログラムを5月11日から来年3月まで実施する。この事業はスマートメーターが計測する30分単位の電力使用量とHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)が計測する家庭内の電気機器の利用状況に関するデータをもとに、省エネや生活支援の情報を提供する取り組みだ(図1)。
2015年度の事業には民間企業と自治体を合わせて34法人が参画する(図2)。「iエネ コンソーシアム」と呼ぶ共同事業体を構成して、NTT東日本など電話会社3社とパナソニックが中心になって事業を推進していく。自治体では4月から電力小売事業に参入した福岡県みやま市のほか、福岡市と三重県の桑名市が情報サービス事業者として加わった。
情報サービスは30種類を予定していて、「生活支援」「省エネ支援」「情報配信」「クーポン配信」「その他」の5分野で構成する。このうち最も注目を集める生活支援サービスは、地域単位と全国規模のものを合わせて7種類ある(図3)。
生活支援サービスの中では、みやま市内の2000世帯のモニター家庭を対象に提供する「高齢者見守り・健康チェックサービス」が代表例だ。2014年度に構築が完了した大規模HEMS情報基盤を利用して、各世帯のHEMSのデータを収集・分析して高齢者の行動などを監視するサービスを提供する(図4)。
モニターの家庭には電力の使用量などを確認できるタブレット型の端末が配布されている。みやま市の見守りセンターが使用量のデータをもとに異常を検知すると、あらかじめ登録しておいた近所の住民や地域の民生委員に通報する仕組みだ(図5)。タブレット端末のほかにパソコンやスマートフォンでも情報を受け取ることができる。
こうした家庭向けの情報サービスを全国各地で約1年間にわたって提供しながら有効性を検証していく。大規模HEMS情報基盤には1万4000世帯のデータに加えて、家庭ごとに設定したプライバシーポリシーを管理する機能も備えている(図6)。サービス事業者は共通仕様のAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を使ってデータを取得することが可能だ。
国の予算を使った実証事業は2016年3月に終了する予定で、4月からは個々の事業者が情報サービスを引き継いでいく。同時に電力の小売全面自由化が始まり、情報サービスの優劣が小売事業者の競争力を左右することになる。
東京電力をはじめ電力会社もスマートメーターとHEMSを活用した情報サービスの強化に乗り出している。安定した事業基盤を持つ電力会社に対抗して、新しい情報基盤を生かした顧客サービスで新規参入の事業者がどこまで勢力を拡大できるか。電力市場の再編に向けた激しい競争が始まる。
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