小売全面自由化で再エネの買取制度が変わる、卸電力市場の取引価格に連動:動き出す電力システム改革(33)
現在の固定価格買取制度では電力を買い取る事業者に対して、火力発電と比べた費用の差額を補てんしている。小売全面自由化に伴って買取義務を小売電気事業者に一本化して、費用の計算方法も変更する。発電コストではなくて卸電力市場の取引価格で費用が決まり、事業者の収益に影響が及ぶ。
第32回:「小売自由化で電力の契約方法が変わる、手続きはシステムで対応」
2016年4月の小売全面自由化で事業者の区分が抜本的に変わる。従来は発電・送配電・小売のすべてを電力会社(一般電気事業者)が中心になって運営してきたが、小売全面自由化後は電力会社を含めて「発電事業者」「送配電事業者」「小売電気事業者」の3種類に区分し直す(図1)。同時に固定価格買取制度による再生可能エネルギーの電力を買い取る義務が小売電気事業者に一本化される。
合わせて買取制度の運用方法を変更することも決まっている。買取制度の原資になる賦課金や、それをもとに事業者に支払われる交付金の算出方法が変わる。現在は電力会社の火力発電にかかるコストをベースに「回避可能費用」を計算して、賦課金と交付金を決めている(図2)。
例えば太陽光発電の買取価格が電力1kWh(キロワット時)あたり32円で、火力発電のコストが12円であれば、電力を調達する事業者から見ると太陽光に対しては火力よりも20円多く費用がかかる。買取制度で事業者に20円を交付金として支給することによって、太陽光の調達コストが火力発電と同等になる。
現在は電力会社10社ごとに回避可能費用の単価を計算して、10社の加重平均(販売電力量のシェア)で新電力など他の事業者の単価も決まる仕組みだ。2015年4月の時点では、発電コストが最も低い北陸電力では回避可能費用の単価が7.45円であるのに対して、最も高い東京電力では13.96円になっている(図3)。結果として、東京電力が買い取るほうが交付金は安くて済む。
このような発電コストをもとに回避可能費用を決定する方法を見直して、小売事業者が電力を調達するのに必要なコストをもとに回避可能費用を算出する方法に変更する。調達コストは卸電力市場で取引される価格の平均値を採用する予定だ。2014年度に卸電力取引所のスポット市場で売買された電力の平均価格は14.67円だった。現在の回避可能費用の平均値と比べて2.7円も高い。
2015年度の取引価格が同じ水準のまま続くと、2016年4月から回避可能費用の単価が2.7円上がって、小売電気事業者に支払われる交付金が下がる。そうなると事業者の収支計画に大きな影響が及んでしまう。政府は「激変緩和措置」として、2020年度までをめどに従来の計算方法で交付金の支給を続ける方針だ。すでに買取契約が交わされている場合には、5年程度の猶予期間を設けて新しい算定方法へ移行していく。
ただし激変緩和措置の対象にならないケースもある。2016年4月以降に買取契約を締結した新規案件のほか、既存の買取契約でも小売電気事業者が再生可能エネルギーの電力を卸市場に転売した場合には適用しない(図4)。転売するだけでは再生可能エネルギーの導入量を増やすことにならないからだ。
既存の事業者からは、回避可能費用の算定に使われる卸電力市場の取引量が少ないことに懸念の声も上がっている。取引量が少ないと価格が高い水準にとどまる可能性があるためだ。政府は小売全面自由化に合わせて、卸電力の取引市場を拡大することにしている(図5)。取引市場の活性化が再生可能エネルギーの導入量にも影響する。
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