再稼働で増える原子力発電所の使用済み核燃料、最終処分場の候補地が決まらない:法制度・規制
原子力発電で使用した燃料を再処理した後に残る高レベルの放射性廃棄物は、数万年にわたって人体に危険な放射能を出し続ける。政府は地下300メートル以上の地中に埋設する方針だが、最終処分場を建設する候補地が決まらない。稼働時期は早くても2040年代になる。
政府は5月22日の閣議で、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を改定した。しかし最終処分が進展する道筋は一向に見えてこない。「将来世代に負担を先送りしないよう、現世代で取り組むべき問題」としながらも、実行スケジュールを示せないままの状態が続いている。
閣議決定した基本方針は7項目に及ぶが、どれひとつとっても具体性に欠ける内容だ。実行スケジュールを記載した部分は1カ所もなく、「現世代で取り組む」という方針は言葉だけに終わっている。現状では早くても2040年代の後半にならないと最終処分場は稼働しない。その一方で原子力発電所の再稼働が進んでいくと、最終処分が必要な高レベル放射性廃棄物の量がどんどん増えていく。
高レベル放射性廃棄物は使用済み核燃料を再処理した後に残る廃液である。現在は青森県の六ヶ所村にある再処理施設の中に貯蔵している。廃液をガラスと混ぜて固体にした後に、30〜50年ほどの時間をかけて冷却してから地下に埋設する(図1)。高レベル放射性廃棄物の冷却は始まっていて、2030年代のうちに埋設を開始できることが望ましい状況だ。
政府の計画では、ガラスで固体化した容器を金属と粘土で覆ってから岩盤に埋める方法を想定している(図2)。放射性物質を閉じ込めるためには酸素が少なくて、放射性元素が地下水に溶けにくい環境を選ぶ必要がある。一方で処分場を建設可能な深さを考慮して300メートルを目安に設定した。
すでに全国各地の原子力発電所では使用済み核燃料を大量に貯蔵している。すべてを再処理すると、ガラスで固体化した容器に換算して2万5000本にのぼる。今後も再稼働が始まれば貯蔵量は増えていく。今のところ4万本程度の容器を埋設できる最終処分場を建設する計画だが(図3)、完成した時点で十分な埋設量を確保できるかは不明だ。
しかも最終処分場がいつになったら完成するのか、現時点ではわからない。一連の最終処分事業は2000年10月に設立した「原子力発電環境整備機構」(略称:NUMO)が担当することになっている。しかし15年近く経った現在でも、最終処分場の候補地を選定するための事前調査を開始できていない。
最終処分場の建設地を選定するプロセスは3段階にわたる(図4)。このうちボーリング調査を実施する第2段階の「概要調査」を平成20年代の前半(2008〜2012年)に計画していた。さらに地下に試験施設を建設して実施する「精密調査」を経て、最終処分場の建設を始めることができる。ところがNUMOは第1段階の「文献調査」にも着手できていない。
文献調査を開始してから最終処分場が稼働するまでには、30年以上かかる見通しだ。かりに2016年度に文献調査を開始できたとしても、最終処分場の稼働は2040年代の後半になる。政府は2030年に原子力発電の比率を20〜22%まで高めるエネルギーミックスの方針を決めたが、その後も20年近く経過しないと最終処分を開始できない。
NUMOだけでは文献調査の候補地を決められないことから、今後は政府が主導して候補地を選定して対象の自治体に申し入れる。合わせて交付金を出して自治体の協力を仰ぐ。原子力発電所と同様に最終処分場にも多額の税金を投入することになる。
それでも受け入れる自治体があるかは疑問だ。2007年には高知県の東洋町が文献調査に応募したものの、その後の町長選挙の結果を受けて応募を取り消している。地元の住民が反対したためである。候補地を選定する3段階のプロセスごとに、自治体の反対があると先に進めないことになっている。
専門家のあいだでは地層処分の危険性を指摘する声も根強く、候補地の住民から理解を得ることは極めて難しい。とはいえ原子力発電所の再稼働に賛成する自治体が全国各地に存在する。地域経済の活性化と放射性廃棄物のリスクのはざまで、「将来世代に負担を先送りしない」判断が現世代に可能だろうか。
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