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エタノール燃料から常温常圧で効率発電を実現、炭素の鎖を断ち切る触媒を開発蓄電・発電機器(2/2 ページ)

物質・材料研究機構(以下、NIMS)研究員の阿部英樹氏は、ナノ材料科学環境拠点(以下、GREEN)研究員の野口秀典氏、東北大学 原子分子材料 科学高等研究機構の准教授 藤田武志氏と共同で、常温常圧でエタノール燃料から効率よく電力を取り出せる触媒の開発に成功した。

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人体に無害なCO2にまで完全に酸化

 同研究チームが発見した新たな触媒は、タンタル(Ta)と白金(Pt)で作るTaPt3合金ナノ粒子で、常温・常圧でエタノール分子の炭素ー炭素結合を切断して電力を取り出すことに成功した(図2)。

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図2:TaPt3ナノ粒子の透過電子顕微鏡像。右図はナノ粒子内部で、タンタル原子と白金原子が秩序正しく並んでいることが分かる ※出典:物質・材料研究機構

 タンタル金属は微粒子の状態では、大気中の酸素や水分と激しく反応する性質を持つ。しかし、水分・酸素濃度が0.1ppm以下の不活性ガス雰囲気下で合成を行うことで白金と化学結合を形成し安定化。大気中や水中でも酸化および水酸化しない状態を作り上げられたという。

 このTaPt3ナノ粒子を触媒として使用し、常温常圧の水溶液中にあるエタノール燃料の酸化実験を行い、高いエタノール酸化電流密度を実現した(図3)。

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図3:常温常圧の水溶液中でのエタノール酸化反応に対する触媒活性の比較 ※出典:物質・材料研究機構

 さらに、TaPt3ナノ粒子を組み込んだPEMFCは、従来触媒のPEMFCよりも高い出力密度を実現したという(図4)。

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図4:TaPt3ナノ粒子、Ptナノ粒子を触媒に利用したPEMFCの出力特性 ※出典:物質・材料研究機構

炭素ー炭素結合を完全に切断

 このエタノールの酸化反応を表面敏感赤外分光法によって測定した結果、TaPt3ナノ粒子を触媒とした場合、炭素ー炭素結合を切断し、CO2にまで、完全に酸化する能力があることが明らかとなった(図5)。

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図5:表面敏感赤外分光法による触媒表面のCO振動(左図)とCO2振動(右図)の測定結果。赤円内部のピークがCOおよびCO2の発生した点。(a)と(c)がTaPt3ナノ粒子の結果 ※出典:物質・材料研究機構

 同触媒を使えばエタノールPEMFCから効率的に電力を取り出すことが可能となり、バイオマス燃料技術と組み合わせることで、新たな発電・蓄電システムの姿を実現できる可能性が生まれてくる。今後に向けてはまず、TaPt3ナノ粒子の合成収量向上に取り組む計画だ。現時点の合成収量は数10ミリグラムだが、これをPEMFC1スタックに必要な数グラムレベルに引き上げる方針だとしている。

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