発送電分離が決まり、九州電力は国に注文をつける:法制度・規制
電力システム改革を締めくくる第3段階の「発送電分離」が法改正で決まった。電力会社は2020年4月1日までに発電・送配電・小売の3事業を別会社に分離することが求められる。すでに東京電力が先行して組織改革を進める一方で、九州電力は原子力の再稼働を条件に見直しの必要性を訴える。
6月17日の参議院本会議で「電気事業法」の改正案が可決された。これにより、電力会社の送配電部門を中立にする「発送電分離」を2020年4月1日に実施することが法的に決まった。発送電分離は電力市場のシステムを改革するプロセスの最終段階にあたる(図1)。法律の整備が終わり、今後は新たな制度の策定と実行に入る。
ただし電力会社の対応には今のところ大きな開きがある。最大手の東京電力は発送電分離に向けた組織改革を着々と進めていて、法律の施行よりも4年早く2016年4月に火力発電・送配電・小売の3つの事業部門を別会社に分離する予定だ(図2)。これに対して残る9つの電力会社は現時点では具体的な取り組みを明らかにしていない。
そうした中で九州電力は法改正が決まった6月17日に「電気事業法改正案の成立について」と題する告知を出した。電力システム改革の実現に向けて最大限に協力するとしながらも、次のような内容の注文を政府につけた。
「なお、平成32年4月から施行となる送配電事業の分離については、安定供給を実現するための具体的な仕組みやルールの整備、原子力再稼働の進展による電力需給の改善や安定、財務状況の改善や安定した資金調達環境の確保、競争環境下でも重要なベースロードである原子力を活用していくための事業環境の整備、などの課題があります。国においては、これらの課題の解消状況をしっかりと検証し、仮に問題が生じていれば改革の方向性の見直しも含めた柔軟な措置を講じていただきたいと考えています。」
短い文章の中で「原子力」を2回も繰り返し、再稼働が進まなければ発送電分離は見直すべきだ、とする内容である。これまでも九州電力は再生可能エネルギーの接続保留を真っ先に実施する一方で、原子力発電所を再稼働する準備を積極的に進めてきた。旧来の電力市場の構造を維持する姿勢は電力会社10社の中で最も明確と言える。
発送電分離を実施すると、発電から送配電・小売までを一体に提供してきた電力会社の競争力が低下する(図3)。特に発電事業と小売事業は価格競争が進み、従来の総括原価方式で守られてきた電力会社の収益構造は根本から崩れる。
九州電力が発送電分離に抵抗感を示すのも無理はないが、もはや改革の流れが止まることはない。各社ともに発送電分離に向けた準備を進めて競争力を高めることが急務である。電力会社には解決すべき課題が山積している。発送電分離までに残された5年弱の期間は意外に短い。
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