火力発電のCO2は減らせる、水素やバイオ燃料の製造も:蓄電・発電機器(3/3 ページ)
日本の電力の中心になる火力発電の最大の課題はCO2排出量の削減だ。発電効率の改善に加えて、CO2を回収・利用・貯蔵する「CCUS」の取り組みが進み始めた。2030年代にはCO2の回収コストが現在の3分の1に低減する一方、CO2から水素やバイオ燃料を製造する技術の実用化が見込める。
人工光合成でバイオ燃料を作る
火力発電所にCO2分離・回収設備を導入すれば、発生するCO2のうち90%以上を排出しないで回収できるようになる。回収したCO2は再利用できることが望ましく、そのための研究開発も始まっている。有効な利用方法の1つは太陽光とCO2で人工的に光合成を起こして、バイオ燃料や化学品の原料を製造することである。
バイオ燃料の開発プロジェクトではIHIの取り組みが先行している。特殊な藻を人工光合成で培養して、藻に含まれる炭化水素を燃料に転換する方法だ(図6)。2015年度に入って鹿児島県に大規模な試験プラントを稼働させて実証を開始した。火力発電所や工場から排出するCO2を回収して、屋外の培養池で太陽光を当てながら藻を増殖させる。
このほかにNEDOを中心に2012年度から10年計画で実施する「人工光合成プロジェクト」がある。太陽光とCO2から化学品の原料を製造する技術の確立を目指している。太陽光で水を分解して水素を作った後に、水素とCO2を反応させて化学品の原料(低級オレフィン)を製造する試みだ(図7)。
それでも利用しきれないCO2が大量に残る。CO2を地下に貯留する実証プロジェクトが北海道で始まろうとしている。苫小牧市の沿岸部に試験設備を建設して、2016年度から5年間にわたってCO2の貯留試験を実施する計画だ。電力会社10社を含むエネルギー関連の有力企業が共同で設立した「日本CCS調査」が実証試験を担当する。
このプロジェクトでは高濃度のCO2を排出する「ガス供給基地」に隣接して、「CO2分離・回収/圧入基地」を建設する(図8)。回収したCO2を圧縮してから、海底1000メートル以上の貯留層までパイプラインで送り込む。年間に10万トン以上のCO2を貯留しながら、貯留層の温度や圧力などを観測して環境に対する影響などを評価する予定だ。2020年度まで観測を続けて実用化につなげる。
実用化の段階では年間に100万トンのCO2を貯留できるようにすることが目標になっている。ただし現在の石炭火力発電では100万kWクラスの大規模な設備になると、年間に500万トン程度のCO2を排出する。全量を回収して貯留することは現実的ではなく、発電効率の向上とCO2の有効利用が欠かせない。
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