燃料電池はアンモニアでもCO2フリーになる、250ワットの発電に成功:蓄電・発電機器
水素エネルギーの拡大に向けて、燃料電池の研究開発が各方面で進んでいる。京都大学を中心とする開発チームは水素の代わりにアンモニアを燃料に使って250ワットの発電に成功した。アンモニアは水素を多く含むため、酸素と反応させれば電力と熱を作ることができる。排出物は水と窒素だけだ。
新たに開発した「アンモニア燃料電池」は、水素(H2)の代わりに気体のアンモニア(NH3)を燃料に利用できるようにした。燃料電池を構成する2つの電極の一方にアンモニアガス、もう一方に空気を送り込むと、電極にはさまれた電解質の中で化学反応が起こって電子(e−)が移動する。この原理で電力を発生させる仕組みだ(図1)。
京都大学のアンモニア燃料電池チームが中心になって試作機を開発した。燃料電池の単体(セル)を積層してスタックを構成するうえで、アンモニアに適用できる部材を選ぶ必要があった。特に燃料のアンモニアが部材の接合部から漏れてしまうと腐食の原因になる。アンモニアを封止する特殊なガラスをノリタケカンパニーリミテドが開発して問題を解決した(図2)。
試作機の発電能力は255W(ワット)である。京都大学の構内で実施した発電試験では、通常の水素を使った場合と同等の性能を発揮した(図3)。発電効率(燃料の熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる割合)は53%になり、商用機と変わらない高いレベルを達成することができた。
燃料電池の種類は電解質にセラミックスを使う「固体酸化物形(SOFC)」を採用した。SOFCは家庭用のエネファームなどで使われている「固体高分子形(PEFC)」と比べて作動温度が高く、発電効率が高い点が特徴だ(図4)。
アンモニア燃料電池の開発チームは次のステップとして、発電能力が1kW(キロワット=1000ワット)の実証機を使った実験を予定している。市販のエネファームの発電能力は最大700ワットで、1kWのアンモニア燃料電池を実用化できれば家庭で使うことが可能になる。
エネファームをはじめ通常の燃料電池は空気中の酸素(O2)と水素ガスが化学反応を起こして、電力と水(H2O)を作り出す。ただし水素は天然ガスなどに含まれるメタン(CH4)から製造する方法が一般的で、生成中にCO2を排出してしまう。水素の代わりにアンモニアを使えば、CO2ではなくて窒素ガス(N2)が発生して、温室効果ガスの排出量を削減できる利点がある。
アンモニア燃料電池の研究開発は政府が推進する「エネルギーキャリア」のプロジェクトの一環で実施している(図5)。水素は常温・常圧の状態では気体になって拡散してしまうため、エネルギーとして利用するには運搬方法が課題になる。水素を液化して運搬する方法のほかに、水素単体よりも取り扱いやすいアンモニアを使って燃料電池を稼働させる方法が有望視されている。
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