発電効率が80%を超える燃料電池、水素イオンで実現へ:蓄電・発電機器
現在の燃料電池の発電効率は60%程度が最高水準だが、それをはるかに上回る“超高効率”の燃料電池の原理を東京ガスと九州大学が共同で開発した。発電に必要なイオンの移動物質を従来の酸素から水素に置き換えて、多段階で化学反応を起こすことにより、電力の発生効率が大幅に向上する。
東京ガスと九州大学の共同研究チームが新たに理論的に設計した燃料電池は、発電効率が80%を超える革新的な技術である。水素を大量に含むメタンを供給する数値実験(シミュレーション)を実施して、実現の可能性を示すことができた。
この新設計の燃料電池は発電効率が高い「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」を進化させた。燃料電池は水素(H2)と酸素(O2)が化学反応を起こして電力を作り出す(図1)。従来のSOFCでは酸素イオン(O2-)を移動させて電力を発生させるが、新方式は水素イオン(H+)を移動させる点が大きな違いだ。
共同研究チームは水素イオンを移動させることによって電力の発生効率が向上するメカニズムを発見した。燃料電池を2段構成にして、それぞれで燃料の組成を最適化すると、発電効率を80%以上に高めることが可能になる(図2)。
発電効率は燃料の熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる割合を示す。通常の火力発電では現在のところ60%程度が最高水準だ。燃料電池の場合はイオンを移動させる電解質の種類によって発電効率に差がある(図3)。家庭用のエネファームで採用している「固体高分子形燃料電池(PEFC)」では35〜45%、一方のSOFCでは45〜60%になる。
新方式のSOFCで80%を超える燃料電池を実現できれば、燃料の利用効率が高まり、CO2の排出量も大幅に低減する。数値実験では燃料電池の構成単位であるセルの数を変化させて、燃料に含まれる水素・水・一酸化炭素・二酸化炭素の比率を最適化した。燃料のメタン(CH4)を一定の流量で供給すると、理論的には発電効率が80%を超える(図4)。
東京ガスと九州大学の共同研究チームは水素イオンの比率が高くなる電解質の開発を進めながら、多段構成によるSOFCの研究を続けていく予定だ。環境にやさしい水素エネルギーの拡大に向けて、超高効率の燃料電池の実用化に大きな期待がかかる。
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