次世代の発電効率は3割アップ、燃料費とCO2を減らす:火力発電の最新技術を学ぶ(1)(2/2 ページ)
15年後の2030年になっても、日本の電力の半分以上は火力発電に依存する。燃料費とCO2排出量を削減するためには、発電効率を引き上げるしかない。日本が世界に誇る石炭火力とLNG火力の最新技術を進化させれば、2030年までに現在の発電効率を3割以上も高めることが可能だ。
最終形は「トリプルコンバインド」
ロードマップでは火力発電の技術を3つの世代に分けて高効率化を進めていくことにした(図4)。第1世代は従来の発電技術をベースにしたもので、発電機が1つだけの「シングルサイクル」である。
続く第2世代はLNG火力で導入が進んでいる「コンバインドサイクル」(複合発電)と呼ぶ方式だ。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて、2種類の発電機を動かすことができる。石炭火力の場合でも、石炭をガスに転換してから燃焼させる。
さらに第3世代になると、3種類の発電方式を連携させて「トリプルコンバインドサイクル」へ進化する。第2世代のコンバインドサイクルの前段に、水素で発電する燃料電池を組み込む。燃料のガスから水素を生成して発電した後に、その排ガスも利用しながらガスタービンと蒸気タービンで3段階の発電を可能にする。同じ量の燃料で発電量を増やして効率を高める仕組みだ。
国内の大規模な火力発電設備の大半を所有している電力会社10社とJ-POWER(電源開発)の現状を見ると、石炭火力では3つの技術方式が使われている(図5)。いずれの方式も、石炭を燃焼してボイラーの中で作る蒸気の温度と圧力を高くする技術である。高温・高圧のレベルによって3種類に分けることができる。ロードマップでは第1世代に入る。
一方のLNG火力は第1世代の従来型と、第2世代のコンバインドサイクルの2種類に集約できる。すでにLNG火力の3分の2はコンバインドサイクルが使われている。今後は第2世代の中でガスの燃焼温度を高めながら発電効率を引き上げていく。同じ第2世代でも発電効率が1割くらい向上して、CO2排出量は1割ほど少なくなる。
火力発電のCO2排出量は石炭と石油のほうが断然多い。LNGと比べると2倍以上にもなる。石油火力は技術革新の見通しがなく、2030年に向けて順次縮小する方向だ。これからも重要な役割を担う石炭火力は、世代の進展に伴ってCO2排出量が段階的に減っていく(図6)。
第3世代の石炭火力になると、第1世代と比べてCO2排出量が3割前後も少なくなる。ロードマップでは2025年をめどに第3世代の発電技術を実用化する目標を掲げた。わずか10年後のことである。急速に進化するLNG火力と石炭火力の発電技術について、ロードマップをもとに主要な方式を紹介していこう。
第2回:「第1世代の発電設備で効率を上げる、高温・高圧・高湿の限界まで」
第3回:「石炭をガス化する第2世代、LNG火力とともに複合発電へ」
第4回:「第3世代は水素も生かす、3段階で発電するトリプルコンバインド」
第5回:「進化するCO2分離・回収法、2030年にコストを4分の1に低減」
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