卸売市場に水素ステーション、燃料電池フォークリフトにも供給:蓄電・発電機器
山口県の周南市に中国地方で初めての水素ステーションがオープンした。卸売市場の敷地内にあり、燃料電池で走るフォークリフト専用のディスペンサーを備えている。市場の中に水素ガスを供給するための配管も敷設して、純水素型の燃料電池を使って電力も供給する計画だ。
岩谷産業が「周南市地方卸売市場」の敷地の中に、「イワタニ水素ステーション山口周南」を8月4日に開設した(図1)。中国地方で初めての水素ステーションで、しかも国内初の燃料電池自動車と燃料電池フォークリフトの両方に水素を充填できる設備である。
周南市には液化水素製造プラントの「山口リキッドハイドロジェン」が2013年から稼働している。新設の水素ステーションまでは5キロメートルほどの至近距離にある。
こうした地域の水素供給能力を生かして、市内の3カ所に水素エネルギーを導入する構想を推進中だ。その1つが卸売市場で、市場と周辺の倉庫のあいだの運搬に燃料電池を搭載したフォークリフトを利用する計画である(図2)。
水素ステーションには通常の燃料電池自動車に水素を充填するためのディスペンサーに加えて、燃料電池フォークリフト専用のディスペンサーを設置した。燃料電池自動車には70MPa(メガパスカル)の圧力で水素ガスを充填するのに対して、小型の燃料電池フォークリフトには半分の35MPaで充填する必要があるためだ。
さらに市場内に電力を供給する燃料電池にも水素ステーションから水素を供給する。燃料電池まで配管を敷設して、水素ガスを直接供給できるようにする予定だ。一般の燃料電池は都市ガスから水素を生成して発電する方式だが、周南市の卸売市場では水素ガスの供給を受けて発電する純水素型のシステムを採用する。フォークリフトと合わせて2017年度までの3カ年計画で実証実験に取り組んでいく(図3)。
すでに周南市では「徳山動物園」に純水素型の燃料電池システムを導入して3月から実証実験を開始している。卸売市場と同様に市内に展開する「水素サプライチェーン」の対象の1つで、水素製造プラントから「カードル」と呼ぶ装置に水素ガスを入れて供給する(図4)。燃料電池で発電した電力を園内の施設の空調などに利用するほか、同時に作る温水を動物のシャワーに利用することができる。
周南市は市街地にある市庁舎などにも燃料電池を設置して、沿岸部の卸売市場と観光地の動物園を加えた3つの地域で水素エネルギーを展開していく。目標では市内の燃料電池の導入台数を2017年度までに600台、2020年度には1400台に拡大する。並行して燃料電池を搭載した自動車・バス・フォークリフトを2017年度までに70台、2020年度には670台に増やす方針だ。
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