第1世代の発電設備で効率を上げる、高温・高圧・高湿の限界まで:火力発電の最新技術を学ぶ(2)(2/2 ページ)
火力発電の能力はタービンを回転させる蒸気やガスの温度で変わる。現在の石炭火力は600度の蒸気で発電する「USC」が主流だが、700度に高めた「A-USC」が2016年度にも実用化できる見通しだ。LNG火力では排熱を利用して高湿の空気を加える「AHAT」が2020年代に普及する。
発電効率が50%を超えるAHAT
同じ第1世代でもLNG火力の効率向上は手法が違う。ガスタービンを使うLNG火力では、高温のガスによる気体の流れでタービンを回転させている。ガスの燃焼温度を高めて回転数を増やす方法のほかに、発電に伴う排熱を回収して高温の蒸気ガスを発生させてタービンの回転に再利用する方法がある。後者がAHATと呼ばれる新しい技術だ。
AHATは3種類の設備を追加して発電効率を高める(図4)。ガスタービンで高温・高圧のガスを発生させるためには、空気を圧縮してから燃焼させる必要がある。AHATでは圧縮機に水を噴霧することで効率を上げることができる。これが1つ目の設備による効果だ。
次に圧縮機の空気を冷却する熱を使って、蒸気を発生させてガスタービンに送り込む設備がある。さらに発電に伴う排熱を回収できる設備を加えて、再び高温の蒸気をガスタービンに供給する。こうして通常の燃焼ガスに加えて蒸気ガスでもタービンを回転させることにより、全体の効率を引き上げることができる。
AHATを使うと発電効率を51%程度まで高めることが可能だ。従来の第1世代のLNG火力では発電効率が38%程度にとどまっていたため、それを3割以上も上回る。第2世代のコンバインドサイクル(複合発電)の発電効率は現時点で52%程度であることから、ほぼ同等の効率を発揮することができる。
コンバインドサイクルはガスタービンと蒸気タービンの両方を備えるため、発電設備が大がかりで複雑になり、それだけ建設コストが増える。一方のAHATは第1世代の技術を拡張して低コストに発電設備を作ることができる。特に中小規模のLNG火力発電設備に適している。今後のLNG火力は大規模な発電設備がコンバインドサイクル、中小規模はAHATが主流になっていく見込みだ。
AHATは現在のところ発電能力が4万kW(キロワット)級の試験設備を使って技術実証の段階にある(図5)。実証プロジェクトを通じて長期間の安定稼働が可能なことを確認したうえで、次に10万kW級の商用機を実用化する計画になっている。
政府のロードマップでは、2017年度をめどにAHATの技術を確立させて商用機の開発に入る。2020年代になると、中小規模のLNG火力発電にAHATが広く使われている可能性が大きい。
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