再生可能エネルギーに逆風、原子力発電の電力が増える九州の未来:電力供給サービス(2/2 ページ)
九州電力が川内原子力発電所の1号機を再稼働させて、8月14日から送電を開始する。9月上旬には最大89万kWの電力を供給する予定で、年内には2号機も再稼働する見通しだ。九州では需要の少ない春に供給力が過剰になり、発電設備の出力を抑制する可能性が高まるが、原子力は対象外である。
原子力を増やせば再エネは増えない
原子力発電の供給力が増大するほど、バイオマス・太陽光・風力は出力を抑制される機会が増える。その間に発電した電力は固定価格買取制度の対象にはならず、事業者の売電収入は減る。原子力と再生可能エネルギーが反比例する状況になってしまう。政府が2014年に策定した「エネルギー基本計画」では、原子力を最小限に抑えて、再生可能エネルギーを最大限に増やす、との基本方針を掲げたが、完全に逆行する。
これから電力の小売自由化が進んで、企業や家庭が電力の購入先を自由に選べる時代に変わっていく。しかし原子力を嫌って他の小売電気事業者から電力を買っても、事業者は出力制御の影響によって火力や再生可能エネルギーの電力を十分に調達できなくなり、原子力の割合が大きい電力会社から調達せざるを得なくなる。いや応なく原子力の電力を使うことになるわけだ。
九州は全国でも再生可能エネルギーの導入が最も活発に進んでいて、環境負荷の低い電力を大量に作ることができる。にもかかわらず原子力発電所を稼働させて、高レベルの放射性廃棄物になる使用済み核燃料を増やし続ける。すでに原子力発電所の構内には使用済み核燃料が大量に貯蔵されているものの、最終処分の実施体制は決まっていない(図4)。
政府が想定している最終処分は、地下300メートル以上の深さの安定した岩盤の中に格納する方法である。格納期間は300年にも及ぶ見込みだ。その間に地中で想定外の事態が発生する可能性はゼロとは言えない。こうした危険を負わされるのは次世代以降であり、現世代が責任を担える範囲を超えている。
いまや世界では欧米はもとより、中国やインドでも再生可能エネルギーの導入を積極的に推進している。これまで原子力を最大限に増やしてきたフランスでさえ、採算性の問題などから原子力の依存度を引き下げることを決めた。
日本の電力会社と政府は目先の損得ではなく、未来を見据えた電力事業を考え直すことはできないだろうか。今ならば軌道修正は間に合うが、各社が相次いで原子力発電を再稼働させてからでは後戻りできなくなってしまう。
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