温泉発電で町おこし、「湯の花」を抑えて年間3000万円の収入に:自然エネルギー
長崎県の雲仙岳のふもとにある小浜温泉は地熱バイナリー発電の導入で知られる。3年間にわたる実証実験で明らかになった課題をもとに、発電設備を改造して商用化にこぎつけた。温泉から発生する「湯の花」の付着対策などを実施して9月2日に売電を開始することができた。
小浜(おばま)温泉では約100度の源泉を利用して、2011〜2013年度の3年間で地熱バイナリー発電の実証実験に取り組んだ。地元の温泉事業者が中心になって「小浜温泉バイナリー発電所」を建設して商用化を目指したものの、いくつかの課題が生じていた(図1)。
最大の問題は温泉成分に含まれる硫黄やカルシウムなどが固まる「湯の花」だ。発電設備の配管に湯の花が付着するために、頻繁に発電設備の運転を止めて除去する必要があった。温泉発電で実績のある新電力の洸陽電機が2014年9月に設備を買い取り、1年間かけて改造を加えた結果、ようやく安定して発電できるようになったことから売電を開始した。
温泉を利用したバイナリー発電は、源泉から取り込んだ温泉水で沸点の低い液体を蒸気に変えて発電する仕組みだ(図2)。源泉から熱交換器まで温泉水を取り込むあいだに外気に触れることで湯の花が発生しやすくなる。新たに源泉と熱交換器を直結する構造にして湯の花の発生を抑える方法をとった。これにより従来は2週間に1回の頻度で発電設備を止めて清掃する必要があったのを2カ月に1回程度に減らすことができる。
さらに発電設備の効率を高める対策も実施した。温泉水などを循環するためのポンプの台数を集約したほか、 バイナリー発電に利用した気体を冷却して液体に戻すための冷却塔も廃止した。従来は発電所の内部で消費する電力量が多く、売電に回せる電力量を十分に確保することが難しかったためだ。冷却塔の代わりに、海水をくみ上げて冷却に利用する方式に改造した(図3)。
バイナリー発電機は1基あたりの出力が72kW(キロワット)で、発電機の内部で消費する電力を差し引くと60kWになる。3基の構成で合計180kWの発電能力がある。ただし温泉水や海水を循環させるポンプなどの電力が必要になるため、売電できる電力は100kWが目標だ。
年間に330日の運転を想定すると、売電量は79万kWh(キロワット時)になる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して220世帯分に相当する。固定価格買取制度を適用することができるため、1kWhあたり40円(税抜き)で売電して年間の収入は約3000万円を見込める。実際には温泉水の量や海水の温度によって売電に回せる電力量が変動するため、想定を下回る可能性もある。
発電事業は洸陽電機が地元の小浜町に設立した特定目的会社の「第1小浜バイナリ発電所」が担当する。売電先は洸陽電機の本体で、新電力として地域に供給する方針だ。売電事業に加えて、発電後の温泉水を旅館や温室ハウスなどで二次利用することも検討していく(図4)。
これまで商用化が難しかった温泉発電を収益事業に転換したうえで、地域の産業振興に役立てる狙いがある。発電事業者と温泉事業者が共同で温泉発電による町おこしのモデルづくりを目指す。
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