電力の自給率が500%を超える町に、日本最大の風力発電プロジェクト:自然エネルギー(2/2 ページ)
岩手県の葛巻町は1999年から再生可能エネルギーの導入を推進して、すでに風力発電だけで全世帯の5倍以上に相当する電力を供給できる状態にある。新たに60基の大型風車を設置する大規模な開発計画が動き出した。環境省は騒音のほか、希少猛禽類に対する影響を回避するよう求めている。
複数の風力発電所による累積の影響も
すでに葛巻町では2つの風力発電所が稼働していて、合計15基の風車で22MWの発電能力がある。「新エネルギーの町」を宣言した1999年から運転を続けている「エコ・ワールドくずまき風力発電所」(3基、1.2MW)と、2003年に運転を開始した「グリーンパワーくずまき風力発電所」(12基、21MW)である(図4)。
2カ所を合わせると年間の発電量は5600万kWh(キロワット時)に達する。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万5000世帯分を超える規模で、葛巻町の総世帯数(2850世帯)の5倍以上に相当する。さらに隣接する岩泉町(いわいずみちょう)にまたがる山岳地帯でも、J-POWER(電源開発)が62MWの風力発電所の新設計画を推進中だ。環境省は複数の風力発電所による累積の影響についても懸念している。
その一方で岩手県では再生可能エネルギーの導入量を拡大するために、風力発電を大幅に増やす方針だ。2010年度に67MWだった風力発電の規模を2020年度には575MWに拡大する目標を掲げている(図5)。再生可能エネルギー全体の半分を風力発電が占めることになる。
ただし当初の3年間では導入量が伸びていないため、新たに県内の4カ所を「風力発電の導入可能性が高い地域」に選んで事業者の参入を促している(図6)。葛巻町は対象地域に含まれていないものの、すぐ北側の山岳地帯が候補に挙がっている。とはいえ希少猛禽類が生息している地域であることに変わりはなく、風車に衝突する危険性は小さくない。
同様の問題は近隣の青森県や秋田県でも生じる。葛巻町の風力発電プロジェクトの進捗によって、東北や北海道で数多く進んでいる開発計画に影響を与える可能性がある。発電事業者が効率的に計画を進められるように、鳥類の保護を考慮した風力発電の適性を示す地域の分布図を国が策定する必要が高まってきた。
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