小さくても磁力は強く、新たな超電導磁石の開発に前進:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
東京農工大学と米国立強磁場研究所の共同グループは、強力な超電導磁石の小型化やポータブル化につながる鉄系高温超電導を応用した強力磁石の開発に成功した。
ネジオム磁石の2倍の磁力を実現、10倍も視野に
バルク状の超電導永久磁石の磁力は、磁化される際に誘導される超電導電流のエネルギーに比例する性質を持ち、超電導電流を流しやすくすることで高性能化できるのメリットがある。多結晶からなる超電導バルクでは、磁場の源となる超電導電流が粒界(結晶と結晶のつなぎめ)で減衰する問題があるため、従来は結晶のサイズを大きくして粒界を減らしたり、向きをそろえたりすることで電流を流れやすくしていた。
今回の研究では、結晶サイズを数十ナノメートル程度まで細かくして、物理的・化学的に緻密・強固につながった粒界構造を作り、超電導電流を従来の10倍以上流れやすくしたという。
実験ではナノサイズの原料粉末を複合金属パイプに充填し、長く伸ばす伸線加工を行った後に、圧力をかけた状態で熱処理して得た長い棒状の試料を、金太郎あめのように輪切りにすることで直径1センチメートル、長さ2センチメートルの小型円柱状の超電導バルクを試作した(図2)。
この超電導バルクを転移温度の絶対温度38ケルビン(−235℃)以下に冷やした状態で、外部から磁化すると永久磁石の性質を示した。さらに絶対温度5ケルビン(−268℃)では、小型でありながら市販のネオジム永久磁石の約2倍に相当する1テスラを上回る磁力を得られた。同時に構造がナノスケールになったことで、高品質な磁場でありながら高い強度を持つなど、強力磁石材料に求められる性質も両立したという。
多結晶バルク(塊)を用いて、市販のネオジム磁石の2倍の磁力を持つ鉄系高温超電導体の磁石化に成功したのは初であり、今後、日本国内の超電導技術を活用すれば10テスラ級の小型磁石を数年以内に実現できると見込んでいるという。
この超電導バルクは小型であり、原料にレアアース元素を含まず、製造プロセスも単純かつ安価というメリットがある。また、液体ヘリウムなどの冷却材を利用した冷却装置は大型になるが、鉄系高温超電導体は冷却剤を用いなくても小型冷凍機による冷却で動作可能だ。そのため今回の成果は強力な超電動磁石の小型化、ポータブル化につながるという。
具体的には、医療用磁気イメージング診断(MRI)、新世代のタンパク質解析・製薬の展開に資するコンパクト核磁気共鳴分析装置(NMR)、高エネルギー加速器や、エネルギー・輸送分野での大幅な省エネを可能にする高効率超電導モーターなどへの応用が期待されるとしている。
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