尿を飲み物に変える! “和製”水再生システムが国際宇宙ステーションへ:省エネ機器
宇宙活動において限られた資源やエネルギーの有効活用は重要な課題だ。栗田工業はJAXAから国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に搭載する水再生システムを受注。高効率に尿を飲料水に再生でき、現在のシステムより小型かつ省エネにしたという。
栗田工業はこのほど宇宙航空研究開発機構(JAXA)から国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟に搭載する「次世代水処理実証システム」のフライト品の製作を受注したと発表した。
同社は2011年に将来型水再生システムの検討実施に関する共同研究契約をJAXAと締結。これまでISSの内部で発生する水分(尿)を回収して、飲用が可能なレベルの水質まで安定的に再生処理する水再生システムの要素技術および処理方式などの研究を進めてきた。今回、栗田工業が受注したフライト品は2016年をめどにISSに運ばれ、日本実験棟内での実証試験に利用する。同試験には栗田工業も参加する予定だ。
受注したシステムはイオン交換、電気分解、電気透析の各ユニットからなる水処理装置と制御装置で構成されている。処理方法はイオン交換により尿に含まれるカルシウム成分やマグネシウム成分を除去した後、独自の特殊電極を用いて有機物を電気分解。さらに電気透析によりイオンを取り除くことで尿を飲料水レベルの水質まで浄化する。電気分解は高温高圧で行い、難分解性の有機物も完全に分解することが可能だ。処理能力は1日当たり1リットル(図1)。
栗田工業は約4年間のJAXAとの共同研究により、ISSでの使用条件下における装置の安全性も検証して装置仕様を確立した。現在使用されているシステムと比較し、高いレベルで水を再生(再生率85%以上)できるという。装置のサイズは水処理装置が535×600×480ミリメートル。制御装置は120×580×475ミリメートルと、サイズ・重量ともに従来比4分の1となった。これに伴い消費電力も約半分に減少している。さらに、イオン交換樹脂の再生をシステム内で自己完結する処理方法を採用しており、樹脂の交換が不要になるなどメンテナンスフリーなシステムとなっている。
現在ISSでは米国製、ロシア製の水処理システムが使用されているが、JAXAと栗田工業は宇宙空間で長期間、安定的に利用できる日本独自のシステムの実現を目指す。栗田工業では「将来の有人探査計画での実用化も視野に入れ、産業界で培った世界有数の水の先進的技術を、宇宙という最先端の技術開発の場で追求していく」としている。
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