下水から作ったCO2フリーの水素、燃料電池車を満タンにして5500円:自然エネルギー(2/2 ページ)
福岡市が世界で初めて下水のバイオガスから作った水素の供給サービスを開始した。市内の下水処理場に併設した水素ステーションで、1キログラムあたり1100円で提供する。市販の燃料電池車は水素5キログラムで満タンになる。下水バイオガスから1日に65台分の水素を供給することができる。
水素の製造で発生するCO2も回収
全国各地にある下水処理場では汚泥を発酵させてバイオガスを作ることにより、汚泥の容量を減らす処理方法が一般的になっている。このバイオガスの成分はメタン(CH4)が6割で、残り4割を二酸化炭素(CO2)が占める。福岡市の中央水処理センターでは膜分離装置を使ってCO2を除去して高濃度のメタンガスを生成してから、水素製造装置で水蒸気(H2O)と反応させて水素(H2)を製造している(図3)。
さらに水素の生成に伴って発生するCO2を吸着材で分離して、高純度の水素を精製する仕組みだ。元のバイオガスも生物由来のためにCO2フリーとみなせるが、水素の製造工程で発生するCO2まで吸収して排出量を抑える。通常の化石燃料から水素を製造する方法と比べて、CO2排出量を極限まで減らすことができる。
福岡市は2014年度から九州大学と民間事業者2社(三菱化工機、豊田通商)と共同で「水素リーダー都市プロジェクト」を推進している。その第1弾が中部水処理センターで実施する下水バイオガスによる水素の製造・供給事業だ。今後は遠隔にあるオフサイトの水素ステーションにも水素を供給できるようにするほか、回収したCO2を車両で運搬して農作物の育成に生かす構想もある(図4)。
福岡市内には合計7カ所の下水処理場がある(図5)。市の中心部にある中部水処理センターは1日に30万立方メートルにのぼる下水を処理することができる。バイオガスの発生量が多いことから、水素の製造のほかに発電にも利用する計画を進めている。
発電能力が365kW(キロワット)のガスエンジン発電機3基を導入する(図6)。水素ステーションが商用サービスに移行する2016年4月に運転を開始する予定だ。年間の発電量は710万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると約2000世帯分になる。
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