燃料電池の耐久性を120倍に、実用化が近づく触媒技術:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
水素社会の実現に向け、さらなる高性能化や低価格化が期待される燃料電池。九州大学の研究グループは、固体高分子形燃料電池に用いる電極触媒の耐久性を、従来比120倍に向上させたと発表した。
燃料電池の大幅なコスト削減へ
現在、固体高分子形燃料電池の普及のため、低コスト化、高活性化、高耐久化の研究が盛んに進められている。しかし、高性能化につながる材料や作製法が確立しても、その成果を反映するため、製造プロセスそのものを再検討しなくてはいけない場合、多くのコストが掛かってしまう。
研究グループは今回の成果について、水素イオンを伝達する樹脂もNafionという現行材料であり、白金ナノ粒子の担持手法も従来と同様であるため、従来通りの製造プロセスを維持できるメリットがあるとしている。
さらにもう1つメリットがある。燃料電池の価格低減を阻む大きな要因なっているのが、触媒に希少金属である白金を用いている点だ。燃料電池セルの価格のうち、約4分の1近くを触媒に使う白金のコストが占めている。今回の成果は、先述した以前研究グループが開発したポリベンズイミダゾールを用いてCNTに白金粒子を担持する技術により、低白金化も図れる。
これは白金粒子の直径を小さくして触媒反応に必要な表面積を増やし、さらにこれを担持するCNTにポリベンズイミダゾールをあらかじめコーティングしておく。これにより粒径を小さくしても白金粒子を均一かつ、ほどよい密度で担持できるようになる。そのため少ない白金量でも従来と同等の性能を保てるというものだ(図2)。今回発表した電極の製造手法は、この技術の延長にあるため、同じく低白金化によるコスト削減も見込めるというわけだ。
1つ課題を挙げれば、現時点で今回研究で用いているCNTは一般的な電極で用いるカーボンブラックと比較して高価だという点だ。しかし最近ではCNTのプラントレベルでの製造も始まった(関連記事)。研究グループは「量産が始まりつつあるCNTについても、燃料電池を含めた用途開発との相乗効果により、今後大幅なコスト低減が見込まれる。従って今回発表した電極触媒も低コスト化が十分に期待できる。今後の実用化に向けて有望な条件が整いつつある」としている。
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