省エネなCO2分離技術を2017年に実用化、火力発電の温室ガス削減にも期待:省エネ機器
水素製造や天然ガスの精製工程などで利用されるCO2分離技術。住友化学は同技術の1種で、エネルギー消費を大幅に抑えられる膜分離法を2017年をめどに実用化する。火力発電所が排出する温室効果ガス削減に向けたCO2の回収貯留技術への貢献も期待される技術だ。
住友化学の子会社CO2M-Techは、開発中のCO2分離膜の実証実験で良好な結果を得られたことから、2017年初頭をめどに国内化学メーカー(社名非公開)の工場に導入し、実用化する計画を明らかにした。
住友化学が開発中の膜分離法によるCO2分離技術は、既存の化学吸収法に比べてプロセスがシンプルでエネルギー消費を大幅に削減できるのが特徴。さらに設備の大きさを従来の2分の1以下に小型化できる。例えば水素製造プラントへ導入する場合、化学吸収設備の前工程にCO2分離膜設備を設置し、CO2を50%程度事前に除去することでスチームコストを大きく削減することが可能となる(図1)。
住友化学は2013年に合弁会社CO2M-Techを設立しCO2分離膜事業化に取り組んできた。2014年5月から同社愛媛工場に、また2015年9月からは今回合意した国内化学メーカーの工場内にパイロット設備を導入し、実際のプラント稼働環境下での実証試験を行い、分離膜のCO2透過性能や耐久性などを確認してきた実績がある。
CO2分離技術は、主に水素製造や天然ガスの精製で、目的のガスからCO2を除去するために使われている。今後、水素エネルギーの利用拡大に伴い、需要の拡大が見込まれている。さらに、温室効果ガス削減の有望技術であるCCS(CO2を回収し地中に貯留する技術)でも、コストの過半を占めるCO2の分離・回収コストを抑える観点から、住友化学が開発しているような膜分離法の実用化が期待されている。
住友化学ではCO2分離市場が2030年には、水素製造(精製、化学プラント)5.2億トン、天然ガス6.0億トン、石炭ガス化複合発電5億トンなど、合計26.2億トンにまで拡大すると推定している(図2)。住友化学では今回実用化に向けて大きく進展したCO2分離膜技術をベースにで、この他にも用途に適した膜の開発にも取り組んでいる。
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