室温で実現できる“超電導”へ前進、物質設計で新指針:省エネ機器
電気抵抗がゼロになり原理的に送電中の熱ロスがなくなることから、省エネルギー化につながるとして期待される超電導技術。さらなる普及に向け超低温まで冷却せずに超電導状態を得られる物質の開発が進んでいる。理化学研究所などの研究グループは新たな物質設計の指針となる研究成果を公開した。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターの強相関量子伝導研究チームと強相関物性研究グループおよび産業技術総合研究所(産総研) 電子光技術研究部門の共同研究グループは、高温超電導銅酸化物の高圧力下電気抵抗測定の結果から、より高い超電導臨界温度を実現する物質設計に新たな指針を示した。
超高速で走るリニアモーターカーや病院での検査に用いるMRI(磁気共鳴画像)装置は、超電導と呼ばれる現象を応用している。超電導状態になると電気抵抗がゼロになり、原理的には送電中の熱ロスが全くなくなる。
また、従来と同じ太さの電線に大量の電流を流せるという利点もある。そのため超電導体は、情報化社会において肥大化しつづけるエネルギー消費を抑えることができる材料として研究開発が進められてきた。ただ、超電導状態の発現には超電導臨界温度(Tc)まで冷却する必要があり、この温度をいかに上げるかが実用化への重要な課題となっている。
共同研究グループは、現在、大気圧下で最も高いTcを示す水銀系超電導銅酸化物のHg1223とHg1212のTcをさらに上昇させる試みを行った。理研のキュービックアンビル型高圧発生装置(高温用)を用いて、従来のHg1223とHg1212よりも粒子間の結合が密接で強度が高く、高圧力下でひびなどが入らない試料を作成した。これは高圧力下での物理的性質を正確に測定するために重要となる。
また、適切な熱処理を行いキャリア量を制御してさまざまなTcを持つHg1223とHg1212を得た。さらにHg1223とHg1212の異なるキャリア量を持つ試料ごとに、圧力によるTcの変化を調べた。その結果、大気圧下で最も高いTcを示す化学組成を持つ試料よりもキャリア量の少ない組成を持つ試料の方が、高圧力下でより高いTcを示すことが明らかになった。
大気圧でTcの最高値はマイナス147度だったが、6万気圧では、Tcの最高値はマイナス134度C、Δp(大気圧下で最も高いTcを示す試料のキャリア量をゼロとし、その値からの差)はマイナス0.025となった。さらに12万気圧でのTcの最高値はマイナス125度、Δpはマイナス0.051だった(図1)。この傾向はHg1223にも見られた。
この「よりキャリアが少ない物質は、Tcにおいてより高い圧力効果を受ける」という発見をもとに、高圧力によって収縮された結晶と同じ状態を小さい元素への置き換えや薄膜化などによって実現できれば、大気圧下でより高いTcを持つ超電導体の開発につながる可能性がある。また、高圧力下での結晶構造解析や物理的特性の測定が進めば、Tc上昇の要因を解明できる可能性もある。
今回、共同研究グループは、Tcを室温レベルまで引き上げることができれば、エネルギーロスを極限まで抑えることができるという、より高い超電導臨界温度を実現する物質設計の新しい指針を得た。今後この研究をきっかけに超電導臨界温度をより高める実験的および理論的研究が促進され、“超省エネルギー社会”の実現につながる室温超電導体の開発が加速すると期待される。
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