世界で初めて台風直撃に耐えた浮体式洋上風力発電、課題はコストと設置方法:自然エネルギー(2/2 ページ)
海に浮かべた風車で発電する浮体式洋上風力発電への期待が高まっている。日本初の浮体式洋上風力発電所実証実験受託企業の1社である戸田建設では「エコプロダクツ2015」に出展し、浮体式洋上風力発電の動向について紹介した。
技術面での課題はほぼクリア、課題はコスト
これらの実績から戸田建設ではエコプロダクツ2015において、この「はえんかぜ」での実証の様子をアピール。実物の直径を示したブース構造となっている他、模型や「浮体式」の仕組みを子ども用プールで体験できるようなコーナーを用意した(図3)。
浮体式の洋上風力発電については世界でもまだそれほど例がなく、日本が最先端の研究と実証を進めているという状況だといえるが実用化に向けての課題にはどういうことがあるのだろうか。
戸田建設 価値創造推進室 技術開発センター 副センター長の樋口正一郎氏は「2年間実際に発電を行ってきて技術的に大きな課題はほとんどない状況だ。最大の課題となっているのがコストである。また、これほど巨大な建造物をうまく海の上に建てなければならないということを考えると設置手法なども検討が必要になる」と述べている。
「はえんかぜ」はスパー型構造でも、細長いスパー型浮体の上部に鋼、下部にコンクリートを採用したハイブリッド型となっている。これは風車の重心を下げて安定性を向上させた他、純国産のコンクリートを採用することでコスト削減に成功したという意味もある。「鋼構造物もコンクリート構造物も、建設を始め当社が多くのノウハウを持つ領域であり、これらの構造体としてコストを下げられる領域はまだ多く存在する。これらを検証していく」と樋口氏は話す。
今後はFITの整備も
また、現在FIT(固定価格買取制度)では洋上風力発電は1kWh(キロワット時)当たり36円で20年間の調達となっているが、これは着床式の洋上風力発電を想定したもので、現在は実証段階にある浮体式洋上風力発電については、新たな価格設定が必要となる見込みだ。樋口氏は「これらの周辺環境の整備も今後は重要になるだろう」と話している。
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