太陽光発電利用率拡大のボトルネック解消へ、東電が出力制御の実証実験開始:電力供給サービス
東京電力は、多数の太陽光発電設備の発電出力の制御を行う実証試験を開始した。変動が激しく、発電した電力を効果的に電力系統に流せないという太陽光発電の課題解消を目指す。
東京電力は、経済産業省の補助事業「次世代双方向通信出力制御緊急実証事業」の採択を受け、多数の太陽光発電設備の発電出力の把握とキメ細やかな出力制御を行うシステムの構築を目的とする実証事業を2015年6月から実施している。このうち出力制御に関する実証試験をこのほど開始した。
実証試験は早稲田大学EMS新宿実証センターに設置した出力制御指令発信サーバと、同社サービスエリア内の太陽光発電設備(8地点)などを双方向通信で結び、リアルタイムで発電状況などを把握しながら、よりキメ細やかな出力制御を行う。これにより、出力制御量をできるだけ少なくすることを目指し、中長期的観点に立った出力制御システムの構築を進めていく(図1)。
信号プロトコルには、デマンドレスポンスの国内標準として推奨されている「Open ADR 2.0b」を採用し、太陽光発電の出力制御だけでなく、分散型エネルギー全般のコントロールを共通のフォーマットで行う環境の構築を目指す。
さらに、同実証センターのスマートハウス環境や同社技術開発センターの設備を活用して、HEMSとの連係による余剰電力の有効活用について実証試験を行う。この試験では、出力制御指令が出された際に、HEMSと連係することで、家庭内のエネルギー機器の利用時間のシフトや蓄電を行い、太陽光発電の発電エネルギーを抑制することなく有効活用することを目的とする(図2)。
実証試験には東大生産技術研究所、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構をはじめ実証試験実施場所の提供企業、機器などの開発協力企業、通信ネットワーク・その他協力企業など18の大学・企業が参加している。また、早稲田大学EMS新宿実証センターは経済産業省が中心となって進めている、「スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会」の検討の成果として、2012年11月に設立。スマートハウス環境や電力系統(配電系統)の状態を検証するシミュレータなどを備え、さまざまなエネルギー利用に関する検証を行うことが可能だ。
東京電力では、この実証などを通じて、電力の安定供給を前提とした太陽光などの再生可能エネルギーの導入拡大に貢献するとともに、HEMS、蓄電池などを活用したエネルギーマネジメントの普及にも積極的に取り組む方針だ(図3)。
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