エネルギーの地産地消で町が変わる、自治体が電力の小売に乗り出す:2016年の電力メガトレンド(4)(3/3 ページ)
電力会社を頂点とする従来の市場構造を転換する試みが全国各地に広がってきた。自治体が主導して再生可能エネルギーを増やしながら、同時に地域内で消費できる循環型のエネルギー供給システムを構築する。4月に始まる全面自由化に向けて、自治体が出資する小売電気事業者も続々と生まれる。
電力会社も自治体と組んで地産地消に
自治体による電力小売の動きは全国各地に波及する。地域の民間企業に加えてエネルギー分野の大手企業が参画するプロジェクトも増えてきた。静岡県の浜松市はNTTファシリティーズやNECキャピタルソリューションの出資を受けて、「浜松新電力」を2015年10月に設立した(図8)。
人口が81万人の浜松市は政令都市の中で初めて電力小売事業に参入する。市内のメガソーラーや清掃工場で発電した再生可能エネルギーの電力を買い取って、浜松市の公共施設のほかに民間企業や家庭にも供給する予定だ。地域全体の需給管理はNTTファシリティーズが請け負うことになっている。
全国各地でメガソーラーを展開するNTTファシリティーズは岩手県の北上市でも、自治体と協定を結んで小売事業を開始した。市内に設立した「北上新電力」がメガソーラーや小水力発電所から電力を調達して、市の庁舎や防災拠点に電力を供給する(図9)。
市役所の本庁舎はBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を使って電力の需給バランスを最適化できるようになっている。太陽光発電システムと蓄電池システムに電気自動車も組み合わせて、需要のピークカットや災害時にも電力の供給を継続できる体制だ。
市町村にとどまらず、県が参画するプロジェクトも始まった。神奈川県は湘南エリアを中心に電力の小売事業を展開する「湘南電力」と協定を結んだ。湘南電力は県の補助金を受けて、県内で稼働中の太陽光発電設備などから電力を購入する(図10)。電力の需給調整をエナリスに委託する体制でエネルギーの地産地消を推進していく。
山梨県では東京電力が協力して、再生可能エネルギーの地産地消と企業の誘致を促進する新しい事業に着手した。県と東京電力が共同で設立した「やまなしパワー」を通じて、県営の水力発電所の電力を企業に安く提供する(図11)。水力発電所が供給する13万世帯分の電力を、東京電力の単価よりも1円程度安く供給する予定だ。
対象は県内の中小企業のほか、新規に山梨県に進出する大企業も含む。県の産業振興策に合致する企業を優先的に選んで、再生可能エネルギーを生かした産業の育成を目指す。東京電力は小売の自由化が進む中で供給先を確保できるメリットがある。官民連携によるエネルギー地産地消の取り組みは、全面自由化が始まる4月以降にますます活発になっていく。
連載(1)「電力・ガス・電話のメガ競争が始まり、電気料金は確実に安くなる」
連載(2)「地域密着型のバイオマス発電が拡大、太陽光の買取価格は下がり続ける」
連載(3)「水素+再生可能エネルギーで電力と燃料を作る、CO2削減の切り札に」
関連記事
- 砂丘の町が電力小売開始へ、鳥取市の新電力「とっとり市民電力」が始動
地方自治体の新電力への参入が相次ぐ中、新たに鳥取市と鳥取ガスは、新電力である「とっとり市民電力」を2015年8月24日に設立した。エネルギーの地産地消の実現を目指す。 - 人口4万人の地方都市が電力小売を開始、2018年に売上14億円を目指す
自治体によるエネルギーサービスの拡充に取り組む福岡県みやま市が、新電力を設立して小売事業に参入する。全面自由化後は家庭向けに注力して、2018年に6000件の顧客を獲得する計画だ。市内で作る太陽光発電の電力を販売しながら、市民向けのサービスを充実させて電力会社に対抗する。 - 水力発電の電力を中小企業に安く、東京電力の「やまなしパワー」
東京電力は山梨県と共同で電力供給の新ブランド「やまなしパワー」を2016年4月に開始する。山梨県の企業局が運営する20カ所以上の水力発電所の電力を買い取って、県内の中小企業を対象に割引料金で販売する地域限定のサービスだ。割引率は電力量料金の3〜6%を予定している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.