原子力発電所と火力発電所の選別が進む、2030年に設備半減へ:2016年の電力メガトレンド(5)(4/4 ページ)
日本の電力システムが抱える問題点の1つは発電設備の老朽化だ。原子力発電所の再稼働が始まったが、その一方で運転開始から40年以上を経過した設備の廃炉に着手する必要がある。火力発電では2030年に向けてCO2排出量の削減が求められるため、LNG火力と石炭火力の高効率化を急ぐ。
石炭火力はCO2の分離・回収も
LNG火力の発電効率は現時点で最新鋭の「ガスタービン複合発電(GTCC)」が52%である。旧来型のLNG火力は38%程度で、GTCCに移行すれば3割以上も効率が良くなる。2020年にはガスタービンの燃焼温度を高めることで57%まで上昇する見込みだ。さらに2030年までに実用化が期待できる「ガスタービン燃料電池複合発電(GTFC)」になると発電効率は63%に達する(図10)。
一方の石炭火力でも最先端の「超々臨界圧(USC)」と呼ぶ発電方式を採用すると発電効率は40%になる。LNG火力と同様に2030年には燃料電池を組み合わせた「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」の実用化が見込まれていて、発電効率は一気に55%程度まで上昇していく。
特に石炭火力はCO2排出量が多いため、発電効率を引き上げてCO2排出量を削減することが不可欠だ。現在のUSCから次世代のIGFCへ移行することでCO2排出量は3割も減る(図11)。その過程で燃料電池を併用しない「石炭ガス化複合発電(IGCC)」が2020年に実用化できる見通しで、この方式でもUSCと比べてCO2排出量は2割少なくなる。
それでも石炭火力のCO2排出量はLNG火力の約2倍も多い。追加の対策としてCO2を放出しないで回収して、地下深くに貯留したり、別の用途に利用したりする技術の開発も必要だ(図12)。中国電力とJ-Powerは広島県に建設中のIGCCの実証設備にCO2の分離・回収設備を併設する。2019年度から実証試験を開始する予定で、商用レベルでは日本で初めてCO2分離・回収機能を備えた石炭火力発電設備になる。
この発電設備で採用するCO2の分離・回収方式は「物理吸収法」である。現在までに実用化が進んでいる方式と比べてコストが半分程度で済む(図13)。発電能力が100万kW級のIGCCでは年間に約440万トンのCO2を排出するが、このうち15%程度を分離・回収することができる。年間のコストは20億円くらいかかるものの、発電効率の改善による燃料費の削減で吸収できるレベルだ。
国も電力会社も未来の展望が描けない原子力発電の安全対策に時間とコストをかけ続けるよりも、その労力を火力発電の効率向上とCO2排出量の削減に振り向けるほうが長期的に見て得策ではないか。その決断が間に合うとしたら2020年までだろう。残された時間は5年しかない。
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