原子力がゼロになれば、電気料金は年間2万7000円まで増えてもよい:電力供給サービス
政府が2030年のエネルギーミックス(電源構成)の案を決定したものの、原子力に対する消費者の嫌悪感は根強い。CO2排出量を削減するために、原子力と再生可能エネルギーのどちらを選択するのか。京都大学が4000人の消費者を対象に、電気料金と原子力・再エネの受容度を分析した。
2016年4月から電力の小売全面自由化によって、家庭でも電力の選択肢が広がる。消費者が第1に重視するのは電気料金だが、電源の種類に注目する利用者も多い。消費者が求めるエネルギーミックス(電源構成)と電気料金の関係について、京都大学の研究グループが興味深い調査結果を公表した。
この調査は2013年2月に実施したもので、電気料金、CO2削減量、エネルギーミックスの3つの要素を組み合わせながら、数値の異なる二者択一の中から回答者が望ましいと思う選択肢を答えていく方法である。
回答結果をもとに、消費者が好む組み合わせを統計的に数値化する「コンジョイント分析」と呼ぶ手法を使って、先ごろ政府が決定したエネルギーミックス(図1)と電気料金の受容度を検証することができる。
インターネットで調査した4000人の回答データを分析した結果、原子力と再生可能エネルギーのどちらを重視するかで、電気料金の受容度に大きな差があることが明らかになった。「原子力重視」の選択肢では、政府案の22%に対して10ポイント高い32%のプランを許容できるのは電気料金が月額で720円安くなる場合だ。さらに原子力を42%まで高めるプランでは1122円の料金低下が求められる(図2)。
一方の「再エネ重視」の選択肢では、政府案の22%(水力を含む)に対して10ポイント高い32%のプランを許容できる電気料金の増加額は310円までだ。ただし原子力を0%に維持するために再エネを44%まで高めるプランになると、月額で2266円の増加を受け入れるという分析結果が出た。年間で約2万7000円の負担増である。
単に再エネを増やすだけではなくて、原子力をゼロに抑える、つまり放射能汚染のリスクを排除するためであれば、電気料金が大幅に上がっても許容する。京都大学の分析結果は、消費者が原子力の再稼働を望んでいない状況を明確に表している。
この調査とは別に、資源エネルギー庁がエネルギーミックスの原案を策定するにあたって試算したデータがある。2030年のエネルギーミックスを構成する石炭・LNG(液化天然ガス)・原子力・再エネの4種類の電源に対して、それぞれ1%ずつ増減させた場合のCO2排出量と電力コストを比較したものだ(図3)。
かりに原子力を10%減らして再エネを10%増やすと、電力コストは年間に2兆1800億円の増額になる。家庭が使う電力の割合は全体の35%であることから、7630億円を負担する必要がある。日本の総世帯数(約5600万世帯)で割ると、1世帯あたり1万3600円になる。原子力をゼロにした場合には2.2倍の3万円弱で、京都大学の分析結果(2万7000円)に近い。
両方のデータを合わせて考えると、消費者は原子力をゼロに維持するためであれば、電気料金の上昇を許容する、という結論になる。電力の小売全面自由化が始まると、原子力を再稼働させた電力会社からは電力を買わない消費者が増えていく。再生可能エネルギーによる電力を選択することも可能になる。エネルギーミックスは政府や電力会社ではなくて消費者や企業・自治体の行動が決める。
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