太陽光エネルギーの長期保存が可能に、化学反応で「熱」として貯蔵:自然エネルギー(2/2 ページ)
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、太陽光エネルギーを蓄積し、後で必要な時に熱エネルギーとして放出できる新しい素材を開発したと発表した。この透明高分子素材は、窓や衣服などさまざまな用途で活用できるという。
シンプルな製造方法
新しい材料の製造には、2段階のプロセスが必要とされるが、とてもシンプルで拡張性の高いものだという。このシステムの開発には、太陽熱を蓄積し日没後に調理用の熱を放熱するソーラークッカーの開発を目的とした、研究チームの以前の研究がベースとなったという。これらの知見を活用したことで、蓄熱材料の薄膜化に成功。ガラスや織物などに組み込むことなども可能だとしている。
熱の有効量を貯蔵する能力を持つフィルムを、より簡単に信頼性高く製造するために、研究チームでは材料としてアゾベンゼン(2つのベンゼン環がアゾ基で結合した芳香族アゾ化合物)を使って研究を開始。まず光への反応により分子構成を変化させることに取り組んだ。研究の結果、アゾベンゼンは光による分子構成の変化がある他、熱の小さなパルスにより刺激を受けることが分かったという。研究者たちは、エネルギー密度やエネルギー量などの改善を進めるため、材料の改善などを進めたとしている(図3)。
図3 フィルムの製造に使われたスピンコーティング法。溶液からフィルム材料をたらして回転させて均一に塗布し、紫外線を当てることでフィルムとして定着させる。このプロセスはレイヤーごとに層の厚さを変えることなども可能だという 出典:MIT
自動車のフロントガラスや電気自動車での利用も
この新しい材料は透明性が高いため、自動車のフロントガラスの凍結防止などにも使用できる可能性があるという。リアウィンドウには凍結防止用に電熱線が埋め込まれているが、フロントウィンドウは視認性が落ちるためにこうした電熱線の埋め込みは禁止されている場合が多い。新しい素材を使えば、フロントガラスの凍結防止を容易に実現可能だ。これらを狙いとして、この素材の研究は、ドイツの自動車メーカーのBMWがスポンサーとなっている。
このような窓が自動車に搭載されたとすると、自動車ではいつでも太陽光からのエネルギーをフロントガラスに蓄積しておくことができる。そして、何らかのスイッチを入れると、少量の熱を発して、空気を暖めることができる。グロスマン氏は「われわれはフロントガラスの氷を溶かすのに十分な熱を生み出すことができることをテストした」と述べる。氷を溶かすのに全てを完全に溶かす必要はなく、ガラス面に近い氷だけを溶かすことができれば、滑り落ちたり、ワイパーでよけることができたりすると同氏は説明している。
研究チームではこの氷溶融フロントガラスを実現するために、フィルムの特性を向上させるように研究を続けている。フィルムは現在はわずかに黄色がかった色合いとなっているので、その透明性の向上について研究を進めている。また、解放する熱についても、周囲の温度より10度も高ければ氷を溶かすことは可能だが、より早く氷を溶かすことができるように、20度の温度差を目指しているという。
また、この技術は電気自動車(EV)に特に有用だとグロスマン氏は語る。電気自動車は寒い環境では、電池の特性上の問題や、加熱に多くのエネルギーを使用することから移動距離が30%低下するともいわれているが、この新しい技術を用いることでその消耗を抑えることができるとしている。
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