バイオマス発電+人工光合成で一歩先へ、海洋エネルギーの挑戦も続く:エネルギー列島2015年版(41)佐賀(4/4 ページ)
家庭から出る廃棄物を活用するプロジェクトが佐賀市で進んでいる。下水と生ごみから電力を作り、同時に発生するCO2を人工光合成に利用して野菜の栽培や藻類の培養に生かす。沖合では海洋エネルギーの実証実験を進める一方、田んぼでは稲を栽培しながら太陽光発電に取り組む。
太陽光発電の棚田で収穫も完了
佐賀県の再生可能エネルギーは現在のところ太陽光発電とバイオマス発電を中心に導入量が拡大している。すでに運転を開始した太陽光発電設備だけでも、県内の家庭の電力需要の4分の1以上を供給できる発電量になった(図9)。
太陽光発電の新たな取り組みとして注目を集めるのが、棚田を利用した営農型の実証プロジェクトだ。佐賀市の山間部に広がる棚田の上部に太陽光パネルを設置して、2015年の春から稲作と発電事業を開始した。棚田の中に支柱を立てて、通常よりも間隔を空けて太陽光パネルを設置している(図10)。パネルの下の田んぼに1日あたり9時間以上の太陽光が当たるように配置した。
2枚の棚田の上部に58枚の太陽光パネルを並べて、合計で14.5kWの発電能力がある。年間の発電量は1万5000kWhを見込んでいる。一般家庭で4世帯分の電力にしかならないが、この方法を実用化できれば設置面積を広げて発電量を増やすことができる。稲作だけの収益では厳しい農家に年間を通して売電収入をもたらし、「米と発電の二毛作」を可能にする狙いだ。
現在はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が太陽光発電の適地を拡大するプロジェクトの一環で実施している。課題の1つは米の収穫量や品質に影響を与えないようにすることだ。初年度は太陽光パネルを設置した田んぼでも収穫量に大きな差は生じなかった(図11)。
収穫した米の品質は九州大学で評価することになっている。その結果が良ければ、他の地域にも展開できる可能性が生まれてくる。バイオマスと海洋エネルギーに加えて、農地の太陽光発電でも先進的な取り組みが広がっていく。
*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −九州編 Part1 −」をダウンロード
2016年版(41)佐賀:「人工光合成で先頭を走る、廃棄物発電とバイオガスのCO2で藻類を培養」
2014年版(41)佐賀:「ごみと下水から電力・熱・水素を地産地消、排出するCO2は植物工場に」
2013年版(41)佐賀:「イカの本場で潮流+風力発電、近海に浮かぶ水車と風車が電力を作る」
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