原子力発電所の再稼働で需給見通し修正、いつまで続ける過大な需要予測:電力供給サービス(2/2 ページ)
関西電力の高浜発電所が再稼働したことを受けて、経済産業省は今冬の電力需給見通しを修正した。従来は2月の予備率を危険水準に近い3.3%で予測していたが、安全圏の6.9%に引き上げた。もはや需要を過大に見積もって予備率を低く出し、原子力発電所の再稼働を正当化する必要はない。
再稼働で4月1日から電気料金を値下げへ
こうして官と民の連携で国民を不安にさせながら、原子力発電所の再稼働にこぎつけたわけだ。さらに再稼働のシナリオは加速していく。3月上旬に高浜発電所の4号機が再稼働することを織り込んで、3月の需給見通しを3.1%から14.4%へ大幅に引き上げた(図3)。2月5日の時点では4号機を再稼働させる日程が確定していないにもかかわらず、経済産業省と関西電力は再稼働を前提に需給見通しを上方修正している。
シナリオの続きは電気料金の引き下げである。関西電力は原子力発電所を再稼働できれば、2016年度の早い時期に電気料金を値下げすると表明している。実際には小売の全面自由化が始まる4月1日から電気料金の単価を引き下げる可能性が大きい。そのために高浜発電所3・4号機の再稼働を3月までに完了させる必要があったと考えられる。
すでに大阪ガスをはじめ多くの事業者が1月初めから関西電力の管内で顧客の獲得に乗り出している。1月29日の時点で21万件の契約変更の申し込みがあった。関西電力の管内には新たに自由化の対象になる家庭や商店の需要家が約1300万件ある。早くも全体の2%近い需要家が契約変更を申し込んだことになる。この状況が4月以降も続けば、関西電力の収益に加わるダメージは大きい。
結局のところ原子力発電所を再稼働させるのは、もはや電力の需給状況が厳しいからではなくて、電力会社の経営状況が厳しいからにほかならない。そろそろ本当のことを経済産業省も電力会社も国民に伝えて、適正な理解を求めるべきである。現状のままでは原子力に対する国民の不信は高まるばかりだ。正確な状況をわかりやすく説明して、それでも国民が再稼働に反対するならば、日本の電力市場に不要なものとみなすのが妥当だろう。
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