木質バイオマス発電を福島の高原で、電力と熱を利用して植物工場も:自然エネルギー
福島第一原子力発電所から20キロメートル圏内に入る田村市で木質バイオマス発電プロジェクトが始まった。地域の木材を活用して、一般家庭の1万5000世帯分に相当する電力を供給する計画だ。エネルギーの地産地消を推進するために電力の小売や植物工場の建設にも取り組む。
田村市は福島県の東部に位置する人口3万7000人の小都市である(図1)。自然が豊富な阿武隈(あぶくま)高原の中心地で、市の面積の67%を山林が占めている。一部の地域は東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所から20キロメートル圏内に入るため、一時は避難対象地区にも指定された。
福島県を挙げて再生可能エネルギーの導入による復興を目指すなか、新たに田村市内で木質バイオマス発電プロジェクトが動き始めた。東日本を中心に産業廃棄物のリサイクル事業を運営するタケエイが田村市の産業団地の中に発電所を建設する。2月12日に発電事業会社の「田村バイオマスエナジー」を設立して活動を開始した。
地元の素材生産事業者や木質チップ製造業者と連携して燃料を確保する。発電能力は6.7MW(メガワット)で、2019年をめどに運転を開始する予定だ。1日24時間の連続運転で年330日の稼働により、年間の発電量は5400万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万5000世帯分に相当する。田村市の総世帯数(1万2000世帯)を上回る規模になる。
発電した電力は固定価格買取制度を通じて東北電力やそのほかの小売電気事業者にも供給する(図2)。間伐材などの未利用木材で発電した電力の買取価格は1kWhあたり32円(税抜き)で、製材端材などの一般木材では24円(同)である。この2種類の燃料を使って年間の売電収入は12〜14億円になる見通しだ。一方で総事業費は35億円程度かかる。
エネルギーの地産地消を推進するために、発電した電力や発電で生じる熱を使って植物工場を運営することも計画している。地域の高齢者や主婦層を中心に雇用を増やして、果物や野菜を植物工場で生産する。さらに市内に小売電気事業者を設立して、地元の事業者や家庭に電力を販売することも検討中だ。
発電所を建設するタケエイは青森県の平川市で2015年12月に木質バイオマス発電所の運転を開始した。岩手県の花巻市でも木質バイオマス発電所を建設中で、2016年度末の運転開始を予定している。福島県の田村市を加えて東北の3県に木質バイオマス発電所を展開する体制になる。田村市では林業が盛んで、木材の素材生産量は福島県内でも有数の規模がある(図3)。
関連記事
- 地域密着型のバイオマス発電が拡大、太陽光の買取価格は下がり続ける
2016年は再生可能エネルギーの流れが大きく変わり始める。これまで急速に伸びてきた太陽光発電は買取価格の低下や出力制御の対象拡大によって開発計画が減少する見通しだ。地域の資源を活用したバイオマス発電が有利な条件をもとに拡大する一方で、風力・中小水力・地熱発電には課題が残る。 - 太陽光発電で全国1位に躍進、被災地に新たなエネルギーの芽生え
震災からの復興を推進する福島県で太陽光発電が急速に拡大している。沿岸部から山間部まで広大な土地にメガソーラーが続々と誕生して、災害に強い分散型の電力供給体制の整備が進んできた。農業と太陽光発電を両立させるソーラーシェアリングの取り組みも広がり始める。 - 木質バイオマスの燃料製造から発電まで、東京の廃棄物処理会社が東北で挑む
岩手県の花巻市で林業と連携した木質バイオマス発電プロジェクトが進行中だ。東京に本社を置く廃棄物処理のタケエイが燃料のチップ製造から発電までを手がける計画で、花巻市内にチップ製造会社と発電事業会社を設立した。2016年度内に発電を開始して1万4000世帯分の電力を供給する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.