低温の蒸気と熱水を使える地熱発電所、大分県の山中で建設開始:自然エネルギー(2/2 ページ)
地熱発電所が数多く集まる大分県の九重町で新しい発電所の建設工事が始まった。従来の地熱発電所では利用できかった低温の蒸気と熱水を使えるバイナリー方式の設備を導入する。発電能力は5MWになり、国内の地熱バイナリー発電所では最大級だ。1年後の2017年3月に運転を開始する。
自然にやさしい地熱バイナリー発電
バイナリー発電では熱水をすぐに地中に戻さずに、再び気水分離器にかけて低温の蒸気と熱水を作る。発電用に水よりも沸点の低い代替フロンやペンタンを媒体として利用するのが一般的だ。熱水と蒸気の熱で媒体を蒸発させると、媒体の蒸気の勢いでタービンを回転させて発電することができる(図4)。
発電に利用した後の媒体は水や空気で冷やして液体に戻してから、再び熱水と蒸気の熱で蒸発させて繰り返し発電に利用する。その一方で温度が低下した熱水は従来と同様に還元基地から地中に戻す。バイナリー発電を実施しても地中の熱水の資源量は変わらない。
地熱バイナリー発電は新たに地中を掘削して生産基地や還元基地を作る必要がないことから、自然環境にやさしい発電方式として注目を集めている。九州電力も既設の地熱発電所にバイナリー発電設備を拡大中だ(図5)。
滝上発電所と同じ九重町(ここのえまち)には、国内で最大の「八丁原(はっちょうばる)発電所」(発電能力110MW)がある。1977年から運転を続ける地熱発電所の構内では、10年前の2006年に「八丁原バイナリー発電所」(2MW)が運転を開始した。このほかにも鹿児島県にある「山川発電所」(30MW)の構内で小規模なバイナリー発電設備の実証試験を実施している。
さらに九州電力グループの九電みらいエナジーが九重町内の菅原地区に、「菅原バイナリー発電所」を2015年6月に稼働させた(図6)。発電能力は滝上バイナリー発電所と同じ5MWで、年間の発電量は3000万kWhを想定している。菅原地区には九重町が所有する地熱井(ちねつせい)があって、蒸気と熱水を供給している。ただし100度前後しかないため、通常の地熱発電には利用できなかった。
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