電力自由化は期待ほどには何も起こさない――フランスの場合:電力供給サービス(2/3 ページ)
2016年4月1日の電力小売全面自由化を控え盛り上がりを見せる電力小売市場。「電気料金が下がる」「再生可能エネルギー中心の小売電気事業者が増える」などさまざまな市場の変化に期待が高まっている。しかし、その期待は裏切られるかもしれない。電力自由化で先行するフランスの状況を、同国で電力比較サイトを運営するセレクトラの共同創業者であるグザビエ・ピノン氏に電力自由化の動向を聞いた。
「電気料金も安くなってはいない」
スマートジャパン 電気料金についてはどうでしょうか。低価格を武器に参入する動きが増えれば下がるという期待感もありますが。
ピノン氏 結果として下がっていないといえる。原則的に電気料金はどの国も徐々に上がる傾向がずっと続いている。電力自由化前後は確かに低価格料金などが登場し、上昇傾向が弱まる局面があったが、最終的にはもとのペースに戻っており、価格の押し下げ効果もそれほどなかったといえる。
新規参入事業者は基本的にはEDFよりも低価格のプランを用意している。パターンとしては主に4つある。1つ目がEDFのプランよりも常に一定比率で安いというものだ。2つ目が料金を固定化してEDFが低価格のところでは少し高くなるが残りの部分で安くなるというものだ。3つ目は価格の安さではなく、再生可能エネルギーを中心に販売するもの。4つ目がオンラインのみでの申し込みなど手続きコスト低減による低価格を実現しているプランである。ただ、フランスの場合を見るとこれらが全体的な価格の押し下げにはつながっていないといえる。
スマートジャパン EDF自身が低価格化をするような動きはないのですか。
ピノン氏 基本的にはない。「規制料金」のままだ。新たに再生可能エネルギーを中心としたプランが加わった程度だろう。
EDFが強すぎるというのはあるかもしれない。EDFは現状で世界最大規模の電力会社である。一方でフランスは大企業と中小企業は存在するが、中堅規模の企業の数が非常に少ない。そこが日本やドイツとの大きな違いだといえる。力のある中堅企業が少ないため、フランスでは電力自由化後に異業種から電力に参入する動きがほぼなかった。そのため「セット割」などの動きはフランスでは非常に少ない。EDFに対抗する手段があまりないということから市場が活性化しなかったといえるかもしれない。
原子力発電が一種の重しに
スマートジャパン 電力の調達の問題などはいかがでしょうか。EDFが強すぎるのであれば新電力が調達に苦労するような場面もあるかと推測できますが。
ピノン氏 フランスの電源構成を見ると75〜76%が原子力発電によるものだ。そしてこれは全てEDFが発電している。また原子力の次に構成比が高いのが水力だが、こちらも大半がEDFによる発電である。再生可能エネルギーなどの発電は非常に少ない(図1)。
つまり新電力が参入しようとしてもほとんどがEDFから電力を調達しなければならないという状況が生まれているわけだ。フランス政府もこういう状況を危惧し、EDFは電力を一定価格で販売しなければならないという法律「ARENH」を策定している。ARENH価格は1MWh(メガワット時)当たり42ユーロとなっているが、現状では電力の卸売価格がこの価格よりも下回っている状況が続いており、実際にはARENH価格での取引はない状況だ。
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