風車と鳥類の衝突を自動検知、洋上風力にも使える遠隔監視システム:蓄電・発電機器
風力発電設備を建設する上で、周辺の生物環境への配慮は非常に重要だ。代表的な環境への影響事例の1つに「バードストライク(鳥類衝突)」がある。バードストライクの観測は人が目視で行っており、正確な実態調査は難しいとされていたが、これを自動で検知できるシステムが登場した。正確な実態把握や、人手による観測コストの削減に貢献できるという。
通信機器の製造・販売を手掛ける日本電業工作(東京都千代田区)は日本気象協会、LinkPro(東京都中央区)と共同で、風力発電設備へのバードストライク(鳥類衝突)検知システムを開発した。既に日本気象協会を通じて全国販売も開始している。
同システムはまず2カ所の監視ポイントに設置した赤外線カメラで発電設備を撮影する。この映像とLinkProが開発した「鳥類検出ソフトウェア」で行った解析し、映像とともにその解析結果を受信点に伝送する仕組みだ(図1)。
赤外線カメラの映像や解析結果の伝送には、日本電業工作の長距離無線LANシステム「FalconWAVE」を利用する。最大20キロメートル離れた地点までの伝送が可能であり、海上に設置する洋上風力発電設備への対応も可能にしている。無線は4.9GHz(ギガヘルツ)帯を使用し、MIMO伝送方式を採用することで、海面反射によるフェージング現象下でも高品質な受信信号を確保できるようにした。
LinkProが開発した鳥類検出ソフトウェアは、映像を解析して鳥類などの衝突を検知する役割を担う。独自開発のアルゴリズムによって24時間の連続運用が可能だ。バードストライクの自動検出には差分検知方式やパターンマッチング方式といった手法が用いられているが、この場合、回転するブレードや雲などの外乱に対して誤検知となる場合も多く、鳥の形状がはっきりしない場合には検出が困難となってしまうなどの課題があった。同ソフトウェアではこうした課題を解決しているという。
風力発電設備を設置する際には、国や自治体とのあいだで環境影響評価のプロセスを実施しなくてはならない。この中にはバードストライクなどの発生を抑えるため、周辺の生物環境に対する影響評価も含まれている。
バードストライクについては現在もその原因や防止策の調査・研究開発が進められているところだ。しかし実際に衝突してしまった鳥類は草木によって隠れたり、その他の生物によって持ち去られたりすることなどにより、発見率は非常に低い。そして現状では目視による観測が基本となっているため、正確な実態調査は困難とされてきた。
今回開発したシステムは日本気象協会の基本設計、監修の下で開発が行われており、より精度の高い実態調査の実現や人間による監視・観測コスト削減の他、風力発電設備付近の環境を利用する鳥類などの実態把握への貢献も期待される。
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