波エネルギーで発電する小型船、乗り心地も快適に:自然エネルギー
東京大学は2016年4月27日、波エネルギーを吸収して発電できる小型船を開発したと発表した。発電できるだけでなく乗り心地の向上にもつながる船で、商品化の目処も立っているという。
日本の沿海には年平均10〜15kW(キロワット)/メートルほどの波エネルギーが存在している。しかし現在の小型船はこうした波エネルギー、つまり波による揺れを受け乗り心地が悪く、その航行は海況によって左右されている。
そこで東京大学生産技術研究所 北澤大輔 准教授、マネージメント企画 代表取締役社長 前田輝夫氏らの研究グループはNEDOの委託事業などのもとで、こうした波エネルギーを発電と乗り心地の向上に活用できる小型船の研究に着手。2016年4月27日に開発成功したと発表した(図1)。
開発した小型船の名前は「Wave Harmonizer」(以下、WHzer)。左右のフロートの上に、サスペンションを介してキャビンを搭載する構造となっている。波を受けたフロートが上下揺れや縦揺れする動きに応じてキャビンも揺れるが、この運動でモーターとジェネレーターを駆動させて電力を得る仕組みだ。波による揺れのエネルギーを電力に変換することで、キャビンの揺れも減少する。これが乗り心地の向上にも貢献する。
研究グループでは上記の構造を内蔵した全長1.6メートルの縮尺実験船を試作し。水槽模型実験を実施した。船の諸元など各要素を最適化した組み合わせでは、フロート幅に入る波エネルギーの150%以上を電力として獲得することが可能だだという。また、波の上下揺れ・縦揺れは波高の半分以下に抑制できることもわかった。この結果に基づき、全長8メートルの小型漁船に換算すると、年間約30%のエネルギー消費量を削減できる見込みだという。
その後2015年4月から、海上実験用の全長3.3メートルの小型船の研究開発にも着手した。同年12月に2人が乗船できる小型船を進水させ、下関の日本海側にある油谷湾で海上実験を行いました。その結果の一例として波高0.2メートルの海域において、最適要素の組み合わせでは、波エネルギー吸収比約7割、またキャビンの揺れを4分の1以下に抑えられたとする。
この成果を受け、研究グループは同技術の商品化の目処もたったとしている。エネルギー消費削減が求められている水産業界、揺れの抑制が重要な通船やオフショアのインフラ関連業界(洋上の風力・波力発電施設のメンテナンス船など)などへの適用が期待できるという。
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