石炭火力で発電効率50%に、実用化が目前の「石炭ガス化複合発電」:次世代の火力発電ロードマップ(2)(3/3 ページ)
火力発電に伴うCO2排出量を削減する有力な技術の1つが「石炭ガス化複合発電(IGCC)」である。発電効率の高いIGCCでは従来の石炭火力と比べてCO2が2割も少なくなる。広島県の火力発電所で実証試験設備の建設が進み、2020年には50万kW級の発電設備が福島県内で稼働する予定だ。
燃料電池の技術はLNGと石炭で共通に
燃料電池を組み合わせたIGFCの取り組みでは、大崎クールジェンプロジェクトの実証試験が最初の事例になる。それに先行してLNG火力では「ガスタービン燃料電池複合発電(GTFC:Gas Turbine Fuel Cell combined cycle)」の開発が進行中だ(図8)。このGTFCの技術を石炭火力のIGFCにも応用できる。
GTFCは三菱日立パワーシステムズが中心になって開発に取り組んでいる。ガスタービンと蒸気タービンに加えて燃料電池で発電する3段階の構成だ(図9)。最初に天然ガスや石炭ガスから水素を取り出して燃料電池で発電する。その後に残ったガスで発電して、さらに廃熱を利用した蒸気でも発電できる仕組みになる。
LNGを燃料に使うGTFCでは発電効率が63%まで向上する見込みだ。通常の「ガスタービン複合発電」と比べてCO2排出量が2割少なくなる。当面の目標は10万kW級のGTFCを実現するための要素技術を2019年度までに開発することである。実用化の時期は2025年度を想定している。大崎クールジェンのIGFCにも同じ要素技術を適用する。
GTFCの実現に向けて、小型のマイクロガスタービンと燃料電池を組み合わせたシステムの実証試験が始まっている。都市ガスを燃料に使って、燃料電池で発電した後にガスタービンで発電する(図10)。GTFCの発電方式のうち最初の2段階を実装したシステムである。三菱日立パワーシステムズがトヨタ自動車と共同で開発した。
燃料電池とマイクロガスタービンを合わせて250kWの電力を供給できる。現在は東京ガスと九州大学の2カ所で実証試験を続けながら性能評価を実施中だ。2017年度に商品化する予定で、さらに発電能力を引き上げた1300kW級のシステムを2018年度に商品化する計画も進んでいる。
特にCO2排出量の多さが課題の石炭火力では、IGCCやIGFCを実現できると排出量を大幅に減らすことが可能だ。現在の石炭火力で主流の「Sub-C(亜臨界圧)」と呼ぶ発電方式と比較して、IGCCでは2割、IGFCでは3割以上もCO2排出量が少なくなる(図11)。
図11 石炭火力の発電方式によるCO2排出量の比較(発電能力が100万キロワットの場合)。単位:万t-CO2/年(CO2換算トン/年)。Sub-C:亜臨界圧、USC:超々臨界圧、A-USC:先進超々臨界圧。出典:資源エネルギー庁
IGFCのCO2排出量は現在のLNG火力と同等のレベルに下がる。加えて燃料費の削減効果も大きい。もともと石炭はLNGや石油と比べて輸入価格が格段に安い。CO2排出量を抑制できれば、今後も主力の電力源として重要な役割を担っていく。
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