中小水力発電はコストダウンで普及、低い落差でも電力を作り出す:再生可能エネルギーの拡大策(3)(2/2 ページ)
全国いたるところに水が流れ、中小水力発電を実施できる場所は限りなく多い。現在のところ導入コストが高く、開発期間も長くかかるため、期待が大きい割には普及していない。政府は河川の流況データを公開して適地を選びやすくする一方、低コストで導入できる水車の開発を促進していく。
水車の高効率化で発電コストを低減
小規模な水力発電では年間の発電量が少なくて、設備の導入コストに比べると売電収入を十分に得られない可能性がある。特に水流の落差が小さい場合には発電量が不安定になりがちで、長期にわたる採算性に影響を及ぼしかねない。
こうしたコスト面の課題を解決するために、低い落差でも安定して発電できる水車を開発して各地で実証実験を展開する(図4)。農業用水路では落差が1メートル程度の場所が数多くあり、低落差で発電できる水車を安く導入できれば適用範囲が一気に広がる。
加えて水車の回転部分にあたるランナーを改良して発電効率を向上させる(図5)。発電効率が上がれば年間の発電量が増えて、売電収入が増加する。政府は2011年度から「中小水力・地熱発電開発費補助金」を開始して新技術の開発・導入を支援してきた。2016年度も9億円強の予算を中小水力発電に割り当てて補助金を交付する計画だ。
これまでに固定価格買取制度の認定を受けた中小水力発電の導入形態を見ると、全体の4分の3は既存の設備を更新する方式で、新設の比率は1割強にとどまっている(図6)。というのも発電所を新設するためには、水車や発電機のほかに取水設備や導水路・放水路などの土木工事が必要になり、建設コストが増大して採算性のリスクが高まるからだ。
一般の河川を利用して中小水力発電を実施する場合には、建設費のうち6割程度が水車と発電機を除いた土木設備にかかる。これに対して水道設備に水車と発電機を設置するケースでは、既存の水道管を利用できるため土木工事は必要ない(図7)。
2014年度から既設の導水路を利用した中小水力発電も固定価格買取制度の対象に加わった。通常の中小水力発電と比べて買取価格は安くなるが、投資回収のリスクは小さくて済む。
さまざまな導入形態で中小水力発電が拡大する一方、土木工事を必要とする新規開発案件を増やす施策も求められる。政府は2017年度以降も固定価格買取制度を見直しながら新規の導入事例を拡大していく方針だ。
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