電力の契約変更に必要なスイッチング支援システム、自動連携か直接操作を選択:電力自由化で勝者になるための条件(11)
小売電気事業者が需要家から申し込みを受け付けると、契約変更(スイッチング)の手続きに入る。広域機関が運営するスイッチング支援システムを使って、需要家の設備の情報や使用量の情報を取得できる。従来の契約を廃止して新しい契約に切り替えるための申請も可能だ。
連載第10回:「電力小売の顧客管理は特殊ではない、システムの導入方法はコスト重視で選ぶ」
契約を切り替えるスイッチングの業務フローを構築するにあたっては、広域機関(電力広域的運営推進機関)のスイッチング支援システムの利用方法を決める必要がある。小売電気事業者の業務システムと自動で連携させるのか、あるいは端末から直接操作する方式を採用するのかによって、業務フローが異なる(図1)。直接操作する場合には二重の入力作業が発生するため、誤入力などの確認が必要な点に注意すべきである。
図1 スイッチング支援システムの主要な機能とシステム間の連携(画像をクリックすると拡大)。API:アプリケーション・プログラミング・インタフェース、FIT:固定価格買取制度。出典:電力広域的運営推進機関
スイッチング支援システムで提供している機能には以下のようなものがある。
●設備情報照会:契約容量や検針日、スマートメーターなど需要家の設備に関する情報を取得できる。スマートメーターが既設か、検針日がいつかによって、電力の供給開始日を決める。ただし供給開始日は需要家が希望すればスマートメーターが設置されていなくても設定可能。
●使用量照会(パスワードの払い出しを含む):精緻な見積もりや契約可否の判断材料となる。
●スイッチング廃止取次申請:新・小売電気事業者が現・小売電気事業者に廃止処理を取り次ぐための申請で、需要家の申し込みを受けてから手続きが可能。
●スイッチング廃止承認:現・小売電気事業者が新・小売電気事業者の廃止申請を承認する。本人確認が必要になるが、改めて書類を請求しないで申込情報から判断する新電力が多い。平日には承認作業が多く発生する可能性があり、自動処理が有効となる。
●スイッチング開始申請:新・小売電気事業者が現・小売電気事業者の廃止承認を受けて、契約の切り替え開始を申請する。
●スイッチング廃止申請:現・小売電気事業者が廃止承認の後に、実際の廃止手続きを行う。この廃止申請と新・小売電気事業者の開始申請がマッチングすれば、スイッチングの処理が完了する。
●再点:引っ越しの際の転入手続きなどを開始する。一般的に転入時に電力を使い始める慣習があるため、使用開始日からさかのぼって契約を処理する必要がある。
●廃止・撤去:引っ越しや改築などに伴う設備の廃止・撤去の手続き。
●アンペア変更:築年数が長いマンションなどでは、共有部の配線を張り替える必要が生じるケースがあり、希望のアンペアに変更できない場合もあるので注意が必要。
●需要家情報変更・各種照会処理
以上の一連の処理は、小売電気事業者の顧客管理システムと自動連携が可能だが、広域機関のWeb入力システムを使って直接操作することもできる(図2)。
需要家の情報のうち、「供給地点特定番号」(電力会社が需要家に付与する22ケタの数字で検針票などに表示)はスイッチング支援システムを利用する上で必須であり、正確な入力が求められる。自動連携方式と直接操作方式のいずれの場合であっても、1度の入力でスムーズに業務を進められるように、申し込みを受け付ける時点で検針票による確認が望ましい。
このほかにスマートメーターの設置状況や検針日を確認する業務フローの確立も欠かせない。廃止・撤去やアンペア変更など工事を伴う業務については、受付後に契約が成立しない可能性を想定して取扱ルールを整備しておく必要がある。
連載第12回:「電気料金の計算は簡易方式で、使用量の確定タイミングも重要」
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