牛の糞尿で発電して下水処理場へ、地下水を汚さないバイオマス活用法:自然エネルギー(2/2 ページ)
酪農が盛んな静岡県・富士宮市の高原で新たなバイオマス発電の取り組みが始まる。牛の糞尿をメタン発酵させたバイオガスで発電して市内の下水処理施設に電力を供給する一方、発酵後に残る消化液も下水と同様に処理する試みだ。消化液を牧草地に散布する量を抑えて地下水の汚染を防ぐ。
電力を安く送電できる「自己託送」を利用
富士宮市の下水処理施設は朝霧高原から南へ30キロメートルほど離れた太平洋沿岸に近い場所にある(図4)。この間を電力会社の送配電ネットワークを使って「自己託送」の仕組みで電力を供給する。自己託送は発電事業者が関連施設などに電力を送る場合に利用できる制度で、小売電気事業者が送配電ネットワークを利用するのと比べて使用量が安いメリットがある。
富士環境農業協同組合は富士宮市や地元の設計会社の協力を得ながら、2016年度内にバイオマスプラントの建設工事に着手する。2017年10月に運転を開始する予定だ。1日24時間の連続運転を見込んでいる。1日の発電量は1200kWh(キロワット時)になり、一般家庭の使用量(10kWh/日)に換算して120世帯分に相当する。下水処理施設には1日に720kWhの電力を供給できる。
この実証プロジェクトの期間は3年間で2018年度末まで継続する。運転開始後1年5カ月の実証結果をもとに、富士宮モデルを確立して大規模なバイオマスプラントの展開を目指す。朝霧高原で飼育する4000頭を超える乳牛の半分程度(約2000頭)の糞尿を利用できるプラントの事業化が目標だ。
実証プロジェクトの事業費は約10億円を見込んでいる。国の事業として実施するために、収益を上げられない制約がある。かりに固定価格買取制度を適用できた場合には、年間に325日の稼働を前提にすると発電量は39万kWhになる。バイオガス発電の買取価格(1kWhあたり39円、税抜き)を適用すれば年間の売電収入は約1500万円になる。20年間の買取期間の累計で3億円程度である。
牛の糞尿を利用した大規模なバイオマスプラントの事業化にあたっては、液肥の処理に加えて採算性の確保が重要な課題だ。日々大量に排出する廃棄物を利用して再生可能エネルギーを効率的に作り出すハードルは高い。実用化できれば、酪農家を悩ます糞尿の処理と地域のCO2排出量を削減する有効な対策になる。
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