大都市で生かす下水のエネルギー、バイオガス発電から熱まで供給:エネルギー列島2016年版(27)大阪(4/4 ページ)
大阪府と大阪市は再生可能エネルギーを中心に150万kWにのぼる電力を2020年度までに増やす計画だ。下水処理場でバイオガス発電を拡大しながら、建物の屋根を利用した太陽光発電や地中熱による空調に取り組む。新たに水素エネルギーを拡大する「H2Osakaビジョン」にも乗り出した。
空港に広がる太陽光と水素エネルギー
建物の屋上を利用した太陽光発電は関西国際空港でも2015年9月に始まっている。空港内の国際貨物を取り扱う施設のうち、3カ所の屋上で合計1.2MWの太陽光発電設備が稼働中だ(図10)。年間に120万kWhの電力を作り出すことができる。
このほかに長い滑走路に沿って、発電能力が11.6MWにのぼる大規模なメガソーラーが2014年に運転を開始している。空港内で稼働中の小型風力発電システムを加えると、再生可能エネルギーで供給できる電力は年間に1700万kWhに達する。空港で消費する電力の10%相当を自給できる状態になっている。
関西国際空港では2014年から「水素グリッドエアポート」を構築するプロジェクトも推進してきた。空港の内外で使用する車両を水素で走る燃料電池タイプに置き換える壮大な計画だ。最初に導入するのが貨物の運搬に利用する燃料電池フォークリフトである(図11)。
屋上に太陽光発電を導入した国際貨物地区を手始めに、3台の燃料電池フォークリフトを導入して実証運用に取り組んでいる。地区内には水素を供給するためのディスペンサーも備えて、燃料電池フォークリフトの運営体制を構築した。今後は空港内で使用する数百台にのぼるフォークリフトを燃料電池タイプに置き換えていく。
関西国際空港には日本で初めて空港に隣接する水素ステーションが2016年3月にオープンした(図12)。水素の製造工場から運んできた液化水素を貯蔵するタンクのほか、液化水素の気化器や圧縮機を備えて燃料電池車に供給する。1時間に燃料電池車6台に水素を充てんでき、2016年度中にも運行を予定している燃料電池リムジンバスにも供給する予定だ。
大阪府は水素エネルギーを拡大する「H2Osakaビジョン」を2016年3月に発表した。国が推進する水素社会の実現に向けて、府内にも水素エネルギーを拡大してCO2排出量の削減に取り組んでいく。
燃料電池の活用で先行する関西国際空港や中央卸売市場の成果を生かしながら、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年度をめどに導入プロジェクトを加速させる方針だ。空港がある湾岸地域を中心に、水素の製造から輸送・活用まで含めて、東京に負けないスピードで水素社会を構築していく(図13)。
2015年版(27)大阪:「太陽光と廃棄物からエネルギーを地産地消、分散型の電力125万kWへ」
2014年版(27)大阪:「電力・熱・水素まで地産地消、大都市のエネルギーを分散型に」
2013年版(27)大阪:「グリーンベイ構想で東京の先を走る、湾岸に広がるメガソーラー群」
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